耕耘部の時計(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
進んだり遅れたりする柱時計
- ミステリ
- 風刺
- 文字数
- 3,420字
- 読了目安
- 約7分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
雪の積もる農場の耕耘部を舞台に、一月十日の一日を「午前八時五分」「午前十二時」「午后零時五十分」と時刻を見出しにした場面でたどる短編。新しく来た赤シャツの若い農夫は、農夫室の柱時計の針が自分の腕時計と合ったり合わなかったりするのに気づき、そのたびに周りの農夫たちに笑われる。玉蜀黍の脱穀、昼の鐘、炉端の会話など農場の一日の手ざわりが細かく書かれ、時計をめぐる小さな謎が軽やかに解かれていく。
あらすじ
一月、雪の反射がまぶしい農場の耕耘部の農夫室に、赤い毛布のシャツを着た若い血色のいい男がやって来る。事務所からここで働くように言われたと農夫長の宮野目に告げ、玉蜀黍の脱穀に回される。男は農夫室の円い柱時計を見上げ、自分の腕時計と比べて「あいつは十五分進んでいるな」とつぶやき、腕時計の針を直そうとして、農夫たちにどっと笑われる。正午、脱穀小屋の外に昼の鐘が鳴り、馬が歩調を揃えて厩へ戻る。ふと腕時計を見ると、今度は柱時計と合っていた。昼食後、農夫長に郷里や前の勤め先を尋ねられた男は、福島の出で六原にいたと答える。一時の少し前、時計ががちっと鳴るのに、針は腕時計より二十分遅れている。農夫たちはまたどっと笑う。夕方、雪が降りしきるなか、赤シャツは炉のそばで手帳に「一月十日、玉蜀黍脱穀」と書き込む。柱時計が六時を打つが、針は五時四十五分を指している。男がにらみつけると、長針が電光のように飛んで六時十五分で止まる。針のねじが緩んでいたのだと見当をつけた男は、窓ぶちに上って蓋をあけ、パリ製の上等な時計だと確かめて針を直し、腕時計に合わせる。年老いた農夫に「汝、時計屋に居たな」と言われ、男は安心したように土間へ飛び降りる。
登場人物
- 赤シャツの農夫 新しく来た若い農夫。時計に詳しい
- 宮野目 農夫長
- 農夫たち 赤シャツの様子を笑う農場の仲間
冒頭部(原文より)
一 午前八時五分 農場の耕耘部の農夫室は、雪からの反射で白びかりがいっぱいでした。
「耕耘部の時計」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「修繕したのか。汝、時計屋に居たな。」炉のそばの年老った農夫が云いました。若い農夫は、も一度自分の腕時計に柱時計の針を合せて、安心したように蓋をしめ、ぴょんと土間にはね降りました。 外では雪がこんこんこんこん降り、酒を呑みに出掛けた人たちも、停車場まで行くのはやめたろうと思われたのです。
「耕耘部の時計」宮沢賢治(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。