一人二役(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
変装して妻を口説く男
- ミステリ
- 風刺
- 文字数
- 6,740字
- 読了目安
- 約13分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1925年(大正14年)、「新小説」に発表した短編。退屈をもてあました遊蕩者の男が、変装して別人になりすまし、あろうことか自分自身の妻を誘惑するという、倒錯した「遊戯」に興じる。だが、その奇想天外ないたずらには、思いがけない裏があった——。人間の退屈と好奇心がもたらす奇妙な喜劇を、軽妙に描いた乱歩初期の一編である。
あらすじ
「人間、退屈すると、何を始めるか知れたものではない」——語り手は、知人Tの奇妙な遊戯について語り出す。無職の遊民Tは、金に困らぬ身にまかせて、遊里をさまよい歩く日々。美しい妻がありながら満足できず、次々と女をあさっては退屈をまぎらわせていた。そんなTが思いついたのが、途方もない「遊戯」だった。変装して別人になりすまし、自分自身の妻を口説き落とそうというのだ。他人のふりをして妻に言い寄るという倒錯した悪戯に、Tは奇妙なスリルを覚える。ところが——後日、Tが語ったところによれば、妻のほうは最初からその正体を見抜いていた。害のない悪戯だし、それで家庭が円満になるならと、だまされたふりをしていたのだという。「女なんて魔物ですね」。すっかり手玉に取られていたと知りながら、Tはどこか得意げで、夫婦は前よりも仲睦まじくやっているのだった。人間の退屈が生む奇妙な喜劇を軽やかに描いた、乱歩の異色作である。
冒頭部(原文より)
人間、退屈すると、何を始めるか知れたものではないね。 僕の知人にTという男があった。型の如く無職の遊民だ。大して金がある訳ではないが、まず食うには困らない。ピアノと、蓄音器と、ダンスと、芝居と、活動写真と、そして遊里の巷、その辺をグルグル廻って暮している様な男だった。
「一人二役」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
「ナニネ、もうすっかり手品の種が分っているのですよ。これをうまく担いだ積りでいた私の方が、実はすっかり、あべこべに担がれていたのです。でも、別段害のある事柄ではなし、それで家庭が円満に行く様にでもなれば、これに越したことはないと思い、つい、だまされた様な体を装っていたのだといいます。女なんて魔物ですね」 それを聞くと、傍に立っていた、相変らず美しいTの細君は、恥しそうにほほえんだ。
「一人二役」江戸川乱歩(青空文庫)
原文を読む
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