海神別荘(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
海底の宮に嫁いだ人身御供
- 幻想
- 文字数
- 22,923字
- 読了目安
- 約46分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
泉鏡花が1914年(大正3年)、「中央公論」に発表した戯曲。「夜叉ヶ池」「天守物語」と並ぶ鏡花の三大幻想戯曲の一つに数えられる。海底の琅玕殿を舞台に、海の主である公子のもとへ、財宝と引きかえに人身御供として捧げられた美女が輿入れしてくる。この世ならぬ美と愛、人間と異界のあわいを、絢爛たる詞章でうたいあげた、鏡花幻想美の極致というべき一幕物である。
あらすじ
海底深く、森厳藍碧の光にみちた琅玕殿。ここを治めるのは、黒髪を背に捌いた美しくも猛き貴公子――海の主である。今宵、その公子のもとへ、一人の美女が輿入れしてくる。彼女の父親が、海のわたつみの財宝を望んで娘を捧げると誓い、公子から莫大な宝を「身の代」として受け取ったため、娘は約束どおり波に沈められ、海底へと運ばれてきたのだ。年老いた沖の僧都や侍女たちがかしずくなか、島田髷に振袖姿の美女が公子と対面する。美女は、自分は死んで海に沈められたと思っているが、公子は、お前は死んだのではなく、この琅玕殿の妃となったのだと告げる。地上の人間の理では測れぬ、この世ならぬ美と愛の世界。やがて美女が、地上の人々に自分の栄えある姿を見せたいと願うと、公子は、人間の目には美女がおぞましい大蛇の姿にしか映らぬことを示し、二人はもはや人間の側には戻れぬことを悟らせる。「男の行く極楽に女は居ない。女の行く極楽に男は居らんぞ」――竜の爪をかけて美女を抱く公子の姿とともに、幕は下りる。人間と異界のあわいに咲く絢爛たる美と愛を、鏡花が幻想の詞章でうたいあげた一幕物である。
登場人物
- 公子 海底の琅玕殿を治める、美しくも猛き海の主。人身御供として沈められた美女を妃として迎える
- 美女 海のわたつみの財宝と引きかえに、父によって波に沈められた娘。死んだと思っていたが、公子の妃となる
- 沖の僧都 年老いた海坊主。公子にかしずき、輿入れの次第を取り次ぐ
冒頭部(原文より)
時。 現代。 場所。 海底の琅殿。 人物。 公子。沖の僧都。(年老いたる海坊主)美女。博士。女房。侍女。(七人)黒潮騎士。(多数) 森厳藍碧なる琅殿裡。黒影あり。――沖の僧都。 僧都 お腰元衆。 侍女一 (薄色の洋装したるが扉より出づ)はい、はい。これは御僧。 僧都 や、目覚しく、美しい、異った扮装でおいでなさる。 侍女一 御挨拶でございます。美しいかどうかは存じませんけれど、異った支度には違いないのでございます。若様、かねてのお望みが叶いまして、今夜お輿入のございます。
「海神別荘」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
公子 ははは、そんな処と一所にされて堪るものか。おい、女の行く極楽に男は居らんぞ。(鎧の結目を解きかけて、音楽につれて徐ろに、やや、ななめに立ちつつ、その竜の爪を美女の背にかく。雪の振袖、紫の鱗の端に仄に見ゆ)男の行く極楽に女は居ない。 ――幕――
「海神別荘」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。