神サマを生んだ人々(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
温泉町に新興宗教が生まれるまで
- 風刺
- 社会
- 文字数
- 13,108字
- 読了目安
- 約26分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 静岡県
この作品について
1953年『キング』に載った風刺譚。温泉町で、客引きの安福軒に薦められた宿で一夜を過ごした医師・大巻博士が、一年後、精神を病んだ宿の女主人を診ることになる。何気なく言った一言が新興宗教「阿二羅教」の誕生につながり、博士は半ば興味、半ば後ろめたさから教団を見学しに行く。「二号の客引き」から「神サマも勝てない男」まで六つの小章でつづく。
あらすじ
温泉都市で泊まる宿がなく途方にくれていた内科医・大巻博士は、かつて近所に店を構えていた料理屋の安福軒に声をかけられ、山の中腹の小さな家に案内される。そこの女主人と一夜を過ごした翌朝、彼女は「主人の安福軒の二号にされている、あなたの二号にしてほしい」と泣き、博士は法外な勘定書を渡されて逃げ出す。一年後、安福軒は精神を病んだその女を連れて博士の病院を訪ね、入院を頼む。博士は腹いせに「神人の性格がある。教祖に祭りあげたらどうだ」と冗談半分に言い、居合わせた呉服屋の手代・日野が教祖の担ぎ手に名乗り出る。さらに一年後、温泉町には「阿二羅教」が生まれ、日野が弁舌さわやかな管長となり、安福軒も幹部として入れ揚げている。大巻博士は旧知の作家・川野水太郎と教団を訪ね、教祖の掌から放たれる熱と軽さを実際に体験して、疑いと戸惑いのなかで「宗教の魅力とは何か」と考え込む。帰り道、安福軒はその宗教をまったく信じておらず、面白がらずに平然と生きる自信に満ちていることに、博士は圧倒される。
登場人物
- 大巻博士 東京芝で開業する内科医
- 安福軒 万国料理の主人。宗匠風の抜け目ない男
- 女主人(阿二羅大夫人) 安福軒の二号。無表情で気品がある
- 日野 呉服屋の手代から阿二羅教の管長になった男
- 川野水太郎 温泉町に住む作家
冒頭部(原文より)
大巻博士が途方にくれながら温泉都市の海岸通りを歩いていると、ポンと背中をたたいた者がある。 「大巻先生じゃありませんか」 振向いてみると、五十がらみの宗匠然とした渋いミナリの人物。見たような顔だ。 「どなたでしたかな?」 「芝の安福軒ですよ。それ、戦前まで先生の三軒向う隣りの万国料理安福軒。思いだしたでしょう。終戦後はこの温泉場でその名も同じ安福軒をやっております」 「すると、君はこの温泉の住人ですか」 「そうですとも。当温泉の新名物、万国料理安福軒」 「ありがたい!」 大巻先生が感きわまって叫んだから、安福軒は呆れ顔、まさかこの先生二三日食う物も食わずにいるわけではあるまいがと考えた。
「神サマを生んだ人々」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
しかし大巻先生は、何かのハズミがありさえすれば今夜のうちにも阿二羅教の信者になりかねない自分の頼りなさに気がついた。そして、それに比べれば、面白くもないことを承知の上でこうしてノコノコついてくる安福軒がひどく逞しいような気がした。人生を面白がろうとしないのだ。面白くないことを百も承知で平気で生きている奴の自信に圧倒されたのである。
「神サマを生んだ人々」坂口安吾(青空文庫)
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