肝臓先生(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
肝臓の碑と愛すべき医者
- 風刺
- 社会
- 文字数
- 23,157字
- 読了目安
- 約46分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 静岡県
この作品について
1950年(昭和25年)、「文学界」に発表された坂口安吾の短編。敗戦二年目の伊東温泉を舞台に、石の肝臓の記念碑を建てて讃えられる風変わりな町医者・赤城風雨先生の一生を、おどけた語り口で綴る。温泉町と漁師町が奇妙に溶けあう土地柄、闇市と禁令の世相が背景にあり、笑いの底に、信念を曲げずに患者へ向かい続けた医師への敬意がにじむ。安吾は戦後に伊東で暮らしており、土地への愛着も読みとれる。
あらすじ
敗戦から二年目の八月十五日、伊東温泉では三浦按針祭の日だけ禁令が解かれるという噂が流れ、伊東に疎開中の彫刻家Qの招きで「私」も勇んで出かけた。だが噂はデマで、街は静まり返っている。Qが頼んできたのは、直径一間もある石の肝臓の碑に刻む詩を作ることだった。碑は町医者・赤城風雨先生をたたえるためのものだという。「私」は漁師の烏賊虎さんの二階に五日間泊まり、先生の生涯を聞く。温泉町と漁師町が不思議に調和する伊東で、先生は戦時中も人手の足りない病院を守った。ところが診る患者の誰もが肝臓を腫らしていると信じて「流行性肝臓炎」との闘いに身を投じ、町では「肝臓医者」とあだ名され、同業の医者たちにまで笑いの種にされる。それでも先生は怒らず、信じるところを貫いた。先生の最期は、碑に刻まれる長い詩のなかで歌われる。孤島で肝臓を病む患者のもとへ、空襲警報も物ともせず舟を漕ぎ急いだという内容である。
登場人物
- 赤城風雨 伊東の町医者。患者の誰もが肝臓を病んでいると信じ、「肝臓先生」とあだ名される
- Q 伊東に疎開している彫刻家。石の肝臓の碑をつくる
- 烏賊虎 漁師町の小頭。「私」を泊めてくれる
冒頭部(原文より)
終戦後二年目の八月十五日のことであるが、伊豆の伊東温泉に三浦按針祭というものが行われて、当日に限って伊東市は一切の禁令を解除し、旅館や飲食店はお酒をジャン/\のませてもよいし、スシでもドンブリでも何を売ってもよろしい、という地区司令官の布告がでたという。 戦争以来伊東へ疎開している彫刻家のQから速達がきて、右のような次第で、当温泉は全市をあげて当日を手グスネひいて待ちかまえて、すでに今から活気横溢しているほどだから、当日の壮観が思いやられるではないか。
「肝臓先生」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
しかあれど肝臓先生は死ぬことなし 海底に叫びてあらむ 肝臓を治せ! 肝臓を治せ! と なつかしの伊東の町に叫びてあらむ あの人も肝臓なりこの人も肝臓なりと 肝臓の騎士の住みたる町、歩みたる道の尊きかな 道行く人よ耳をすませ いつの世も肝臓先生の慈愛の言葉はこの道の上に絶ゆることはなかるべし 肝臓を治せ たたかえ! たたかえ! 流行性肝臓炎と! たたかえ! たたかえ! たたかえ! と
「肝臓先生」坂口安吾(青空文庫)
原文を読む
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