河童(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
河童の国から人間社会を笑う
- 詳細なあらすじ
- 人物相関図
- 風刺
- 幻想
- 文字数
- 37,547字
- 読了目安
- 約1時間15分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 長野県
この作品について
1927年(昭和2年)3月、『改造』に発表された芥川龍之介の小説。精神病院の患者「第二十三号」が語る話を、別の「僕」が書き留めたという枠組みを持つ。三年前の夏、上高地から穂高山へ向かった男は、霧の深い梓川の谷で河童に出会う。夢中で追いかけた先には、人間とよく似た街や暮らしを持つ、河童たちの国があった。見慣れぬ生き物の社会を、医者や漁師、商店や自動車など、身近な職業や事物の名を交えて報告する語りが可笑しさを生む。出産、恋愛、労働、芸術や宗教についての習慣が次々に紹介され、人間が当然と思う価値や制度を、別の側から眺める風刺となる。河童の身体や言語をもっともらしく説明する見聞録の調子と、語り手自身の驚きや戸惑いが同居する点にも特色がある。異国を訪れる冒険の形を借りながら、社会を判断する基準と、それを語る人間の立場を揺さぶる作品である。
あらすじ
精神病院の患者・第二十三号は、誰にでも河童の国の話をして聞かせる。3年前の夏、上高地から穂高山へ登ろうとした彼は、梓川の谷で一匹の河童を追ううちに深い穴へ転げ落ち、河童の国に迷い込んだ。そこでは出産の前に父親が胎児へ「生まれたいかどうか」を尋ね、胎児が「生れたくはありません」と答えればそのまま生まれずに済む。雌が雄を追いかけ回す恋愛、職を失った職工が食用にされる「職工屠殺法」、検閲のない芸術——河童の社会は人間の世界をあべこべに映し出す鏡である。彼は漁師のバッグ、詩人のトック、哲学者のマッグ、資本家のゲエルらと親しく交わるが、厭世詩人トックはピストル自殺を遂げ、その霊は降霊会に呼び出されて生前を語る。やがて人間の世界に帰った彼は、かえって人間というものに嫌気がさし、河童の国へ戻りたいと願いながら、精神病院の一室で河童たちの来訪を待ち続けている。
登場人物
- 第二十三号 河童の国に迷い込んだ精神病院の患者。物語の語り手
- バッグ 彼を世話する漁師の河童
- トック 厭世的な詩人の河童。ピストルで自殺する
- マッグ 冷静な哲学者の河童
- ゲエル 硝子会社の社長。資本家の河童
人物相関図
章ごとの「詳細なあらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 導入──梓川の谷から河童の国へ
- 五 あべこべの国──お産・恋愛・音楽会
- 六 資本と政治──職工屠殺法とゲエルの微笑
- 七 トックの自殺──「阿呆の言葉」と生活教
- 八 幽霊と帰還──年をとった河童の天窓
- 九 結末──精神病院の第二十三号
- 十 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
これはある精神病院の患者、――第二十三号がだれにでもしゃべる話である。彼はもう三十を越しているであろう。が、一見したところはいかにも若々しい狂人である。彼の半生の経験は、――いや、そんなことはどうでもよい。彼はただじっと両膝をかかえ、時々窓の外へ目をやりながら、院長のS博士や僕を相手に長々とこの話をしゃべりつづけた。
「河童」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
けれども僕はこの詩人のように厭世的ではありません。河童たちの時々来てくれる限りは、――ああ、このことは忘れていました。あなたは僕の友だちだった裁判官のペップを覚えているでしょう。あの河童は職を失った後、ほんとうに発狂してしまいました。なんでも今は河童の国の精神病院にいるということです。僕はS博士さえ承知してくれれば、見舞いにいってやりたいのですがね……。
「河童」芥川龍之介(青空文庫)
名文
これはある精神病院の患者、――第二十三号がだれにでもしゃべる話である。
晩年の風刺小説の書き出し。狂人の話であると先に断ることで、河童の国に託した人間社会への痛烈な批評が語り出される。
阿呆はいつも彼以外のものを阿呆であると信じている。
河童の国の哲学者マッグが書いた「阿呆の言葉」の一節。人間社会を裏返しに映す河童の世界を借りて、人の愚かさを皮肉る警句。
お前はこの世界へ生まれてくるかどうか、よく考えた上で返事をしろ。
河童の国のお産の場面で、父親が母親の腹の中の子に大声で問いかける言葉。生まれるかどうかを子自身に選ばせる奇想が、人間社会への痛烈な風刺になっている。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。