かしわばやしの夜(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
柏の林で開かれる歌の競べ
- 幻想
- 風刺
- 文字数
- 7,767字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
宮沢賢治が生前に刊行した唯一の童話集『イーハトヴ童話 注文の多い料理店』(1924年)に収められた一編。夕暮れの畑仕事の帰りに、赤いしゃっぽの画かきに誘われた農夫の清作が、柏の木大王が君臨する林で、夏のおどりの第三夜に立ち会う。歌の競べと賞のメダル、梟の乱舞と、にぎやかな掛け合いの歌が続く。リズム感のある童謡風の歌と、画かきと柏の木々のユーモラスなやりとりを楽しむ、賢治らしい童話である。
あらすじ
畑で稗に土をかけていた清作は、夕暮れ、柏ばやしのほうから「欝金しゃっぽのカンカラカンのカアン」という調子はずれの声を聞く。駆けつけると、赤いトルコ帽をかぶった背の高い画かきに襟首をつかまれるが、清作が負けずに同じ調子でどなり返すと、画かきは大喜びし、柏の木大王のところへ案内する。林の柏の木々は画かきには愛想がよいが、清作には冷たい。柏の木大王は、清作を斧で九十八本もの柏を切った前科者だと言い、清作は山主に酒を買ってあるから問題ないと言い返し、二人は何度も口げんかになる。月がのぼると、画かきは夏のおどりの第三夜の歌の競べを始めさせ、うまい歌には一等から九等までメタルを書いてやると言う。若い柏の木が次々に、馬と兎、きつね、猫、くるみなどの歌をうたい、画かきは手帳につけていく。清作の歌をからかう歌が出ると清作は怒るが、画かきに押さえられる。やがて梟たちが現れ、柏の木と合同の大乱舞会になるが、霧が林に降りてきて、みんな凍りついたように立ちすくむ。画かきはいつのまにか消えていて、清作は林を出る。柏の木々は踊りの形のまま残念そうに見送り、遠くの沼森のあたりから画かきが「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン」と叫ぶのが聞こえる。
登場人物
- 清作 畑仕事をしていた農夫。柏の木大王と口げんかを繰り返す
- 画かき 赤いトルコ帽の背の高い男。歌の競べの審判役を務める
- 柏の木大王 十九本の手と一本の脚を持つ林の主
- 梟の大将 金モールをつけ、梟たちを率いて現れる
冒頭部(原文より)
清作は、さあ日暮れだぞ、日暮れだぞと云いながら、稗の根もとにせっせと土をかけていました。 そのときはもう、銅づくりのお日さまが、南の山裾の群青いろをしたとこに落ちて、野はらはへんにさびしくなり、白樺の幹などもなにか粉を噴いているようでした。
「かしわばやしの夜」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
清作はそこで林を出ました。柏の木はみんな踊のままの形で残念そうに横眼で清作を見送りました。 林を出てから空を見ますと、さっきまでお月さまのあったあたりはやっとぼんやりあかるくて、そこを黒い犬のような形の雲がかけて行き、林のずうっと向うの沼森のあたりから、 「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン。」と画かきが力いっぱい叫んでいる声がかすかにきこえました。
「かしわばやしの夜」宮沢賢治(青空文庫)
名文
「欝金しゃっぽのカンカラカンのカアン。」
日暮れの畑仕事をしていた清作の耳に、柏ばやしの方から届く調子はずれの声。奇妙な画かきとの出会いと、柏の木たちの夜の宴の始まりを告げる。
お月さまの光が青くすきとおってそこらは湖の底のようになりました。
柏の木たちの歌比べの夜を照らす月光。月の色が場面ごとに移り変わる、この作品の幻想的な光の描写の一つ。
原文を読む
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