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馬の脚(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

冥途で馬の脚をつけられた男

  • 幻想
  • 風刺

芥川龍之介 1925年(大正14年)1月 「新潮」

文字数
10,969字
読了目安
約22分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

芥川龍之介の晩年の短編。北京の三菱に勤める平凡な会社員、忍野半三郎が脳溢血で急死し、冥途の事務室で人違いの手違いから「馬の脚」をつけられる、という発端の滑稽な幻想譚。半三郎の日記と新聞記事を材料に、語り手の「わたし」が顛末を伝える形をとり、会社、医師、新聞主筆など周囲の人びとへの風刺がちりばめられている。大正14年1月、2月号の「新潮」に連載された。

あらすじ

北京の三菱に勤める忍野半三郎は、二年前に媒酌結婚した妻の常子と平凡に暮らしていたが、ある日の午後、会社の机で脳溢血のため頓死する。ところが冥途の事務室で、役人たちは別人のヘンリイ・バレットと取り違えていたことに気づき、半三郎の腐った脚の代わりに、死んだばかりの馬の脚をつけてしまう。半三郎は寝棺の中で息を吹き返すが、脚は馬の脚に変わっていた。彼は同僚にも妻にも気づかれまいと、長靴を履き、洋間を作り、蚤や臭いに悩まされながら日記に苦心を書きとめる。ある日、黄塵が舞う北京で、半三郎の脚は暴れ出す。彼は常子に脚を縛ってもらうが、三十分後、玄関から飛び出して姿を消す。周囲は彼の失踪を発狂のせいにするが、半年後の十月の夕暮れ、常子のもとへ、ぼろぼろの姿の男が現れる。

登場人物

冒頭部(原文より)

 この話の主人公は忍野半三郎と言う男である。生憎大した男ではない。北京の三菱に勤めている三十前後の会社員である。半三郎は商科大学を卒業した後、二月目に北京へ来ることになった。同僚や上役の評判は格別善いと言うほどではない。しかしまた悪いと言うほどでもない。まず平々凡々たることは半三郎の風采の通りである。もう一つ次手につけ加えれば、半三郎の家庭生活の通りである。  半三郎は二年前にある令嬢と結婚した。令嬢の名前は常子である。これも生憎恋愛結婚ではない。ある親戚の老人夫婦に仲人を頼んだ媒妁結婚である。常子は美人と言うほどではない。もっともまた醜婦と言うほどでもない。ただまるまる肥った頬にいつも微笑を浮かべている。奉天から北京へ来る途中、寝台車の南京虫に螫された時のほかはいつも微笑を浮かべている。しかももう今は南京虫に二度と螫される心配はない。それは××胡同の社宅の居間に蝙蝠印の除虫菊が二缶、ちゃんと具えつけてあるからである。

「馬の脚」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

けれどもそれだけの理由のために半三郎の日記ばかりか、常子の話をも否定するのはいささか早計に過ぎないであろうか? 現にわたしの調べたところによれば、彼の復活を報じた「順天時報」は同じ面の二三段下にこう言う記事をも掲げている。―― 「美華禁酒会長ヘンリイ・バレット氏は京漢鉄道の汽車中に頓死したり。同氏は薬罎を手に死しいたるより、自殺の疑いを生ぜしが、罎中の水薬は分析の結果、アルコオル類と判明したるよし。」

「馬の脚」芥川龍之介(青空文庫)

名文

この話の主人公は忍野半三郎と言う男である。生憎大した男ではない。

冒頭の一文。北京の会社員という平凡な主人公を淡々と紹介し、続く奇想天外な出来事との落差を際立たせる。

「じゃその馬の脚をつけよう。馬の脚でもないよりは好い。ちょっと脚だけ持って来給え。」

あの世の役所で、手違いを正すため半三郎に脚をつける場面。人間の脚がないからと馬の脚で間に合わせる、とぼけた可笑しみが効いている。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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