月夜のでんしんばしら(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
でんしんばしらの軍隊が行進する
- 幻想
- 風刺
- 文字数
- 4,321字
- 読了目安
- 約9分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 岩手県
この作品について
月夜の線路ばたを歩いていた恭一が見たのは、亜鉛の帽子をかぶり、片脚でひょいひょいと行進してゆく電信柱の大群だった——童話集「注文の多い料理店」に収められた宮沢賢治の一編。「ドックデッデ ドックデッデ」の軍歌と、いばりくさった電気総長のじいさんが、可笑しくも不気味な夜の情景をつくり出す。
あらすじ
ある晩、恭一は草履をはいて、鉄道線路の横をすたすた歩いていた。九日の月がかかり、うろこ雲が空いっぱいに広がっている。停車場の赤や紫の灯りが、まるで大きなお城のように見えるところまで来たとき、右手のシグナル柱ががたんと腕木を下げた。それだけなら不思議でもなんでもない。ところがその次が大変である。線路の左側でぐゎんぐゎんとうなっていた電信柱の列が、大威張りで一斉に北のほうへ歩き出したのだ。六つの瀬戸もののエボレットを飾り、てっぺんに針金の槍をつけた亜鉛のしゃっぽをかぶって、片脚でひょいひょいと。しかもいかにも恭一を馬鹿にしたように横目でじろじろ見てゆく。やがて「ドックデッデ ドックデッデ」という軍歌が響き、そこへ現れたのが電気総長を名のる小さなじいさんだった。じいさんは電信柱たちを叱りつけ、行進を指揮し、恭一に電気の世界の理屈を得意げに語って聞かせる。だがそこへ汽車が来た。「あ、いかん、汽車がきた。誰かに見附かったら大へんだ」——じいさんは「全軍、かたまれい、おいっ」と叫び、電信柱はぴったり止まって普段どおりに戻った。じいさんは客車の電燈が消えているのを見て「けしからん」と言いながら、走る列車の下へもぐりこむ。あぶない、と恭一が止めようとしたとき、窓がぱっと明るくなって、小さな子が手をあげて「あかるくなった、わあい」と叫んで行った。
登場人物
- 恭一 月夜の線路ばたを歩く少年
- 電気総長のじいさん でんしんばしらの軍隊を率いる
- でんしんばしら 亜鉛の帽子をかぶって行進する
冒頭部(原文より)
ある晩、恭一はぞうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らなところをあるいて居りました。 たしかにこれは罰金です。おまけにもし汽車がきて、窓から長い棒などが出ていたら、一ぺんになぐり殺されてしまったでしょう。 ところがその晩は、線路見まわりの工夫もこず、窓から棒の出た汽車にもあいませんでした。そのかわり、どうもじつに変てこなものを見たのです。
「月夜のでんしんばしら」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「あぶない。」と恭一がとめようとしたとき、客車の窓がぱっと明るくなって、一人の小さな子が手をあげて 「あかるくなった、わあい。」と叫んで行きました。 でんしんばしらはしずかにうなり、シグナルはがたりとあがって、月はまたうろこ雲のなかにはいりました。 そして汽車は、もう停車場へ着いたようでした。
「月夜のでんしんばしら」宮沢賢治(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。