注文の多い料理店(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
山奥にたたずむ不思議な店
- 幻想
- 風刺
- 文字数
- 5,466字
- 読了目安
- 約11分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
1924年(大正13年)12月に刊行された童話集『イーハトヴ童話 注文の多い料理店』の表題作。『どんぐりと山猫』『水仙月の四日』など九編を収めるこの本は、賢治が生前に刊行した唯一の童話集である。物語は、狩りに出かけた二人の若い紳士が、山奥で「山猫軒」という西洋料理店を見つけるところから始まる。扉の貼り紙と二人の会話を重ねる構成、声に出しても楽しい言葉の調子、ユーモアに不気味さが入り交じる語り口が特色である。賢治は童話集の広告文で、イーハトヴを、自分の心に浮かぶ岩手県の風景から生まれた世界として説明した。また、本作には都会の文明や勝手気ままな富裕層への批判を込めたことも記している。山の自然と都会から来た人間との取り合わせには、空想の楽しさとともに、社会を見つめる作者のまなざしが息づいている。
あらすじ
すっかりイギリス兵のような身なりをした二人の若い紳士が、猟犬を連れて山奥へ狩りに出かけるが、案内の猟師とはぐれ、犬も死んでしまう。帰り道もわからず空腹になった二人は、「西洋料理店 山猫軒」という立派な洋館を見つけ、喜んで中に入る。館内には次々と扉が現れ、髪を整えよ、鉄砲を置け、金物を外せといった注文書きが貼られており、二人は客として歓迎されるのだと信じて従っていく。顔や手足にクリームを塗り、頭に香水をかけたあと、体中に塩をもみ込むよう指示され、ようやく自分たちが料理されようとしていることに気づいて震え上がる。絶体絶命のところへ、死んだはずの犬たちが飛び込んで奥の扉へ向かい、猫の声がすると部屋は煙のように消える。二人は迎えに来た猟師とともに帰るが、恐怖のあまり紙くずのようにくしゃくしゃになった顔だけは、東京に帰っても元には戻らなかった。
登場人物
- 二人の紳士 西洋の兵隊のような身なりで狩りに来た若い男たち。山猫軒に迷い込む本作の主人公
- 山猫 西洋料理店の主人を装い、二人を食べようとたくらむ
冒頭部(原文より)
二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲をかついで、白熊のような犬を二疋つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云いながら、あるいておりました。「ぜんたい、ここらの山は怪しからんね。鳥も獣も一疋も居やがらん。なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」「鹿の黄いろな横っ腹なんぞに、二三発お見舞もうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくるまわって、それからどたっと倒れるだろうねえ。」
「注文の多い料理店」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
そこで二人はやっと安心しました。そして猟師のもってきた団子をたべ、途中で十円だけ山鳥を買って東京に帰りました。しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。
「注文の多い料理店」宮沢賢治(青空文庫)
名文
二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲をかついで、白熊のような犬を二疋つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云いながら、あるいておりました。
山を軽んじる紳士たちの姿から始まる書き出し。やがて「注文」する側とされる側が入れ替わる、皮肉の効いた童話の幕開け。
しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。
山を出て助かった二人を突き放す最後の一行。恐怖に歪んだ顔が二度と元へ戻らないという一点だけが、罰として残される。
どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません
山猫軒の玄関に掲げられた最初の注文書き。二人の紳士は都合よく読んで喜ぶが、読み返すと裏の意味が浮かび上がる。この言葉遊びが物語の仕掛けの始まりになる。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。