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花燭(太宰治)のあらすじ・登場人物

男爵と呼ばれる男と女優

  • 心理
  • 風刺

太宰治 1939年(昭和14年)5月

文字数
18,502字
読了目安
約37分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

1939年(昭和14年)5月に発表された短編。東京郊外で、貧しい訪問客たちに囲まれて暮らす地主の息子「男爵」が、実家の元女中で今は女優となったとみと再会し、結婚の相談に巻き込まれる。ある種の運動に挫折して、人の役に立つことだけを願う青年の屈折と、新しい世代への期待を、軽妙な語りで描く。題の「花燭」は婚礼の灯の意。

あらすじ

東京郊外の借家で、貧しい訪問客たちを毎晩もてなす、地主の息子で通称「男爵」と呼ばれる男がいた。学生時代に政治運動や自殺未遂を繰り返して挫折し、今は人の役に立ちたい気持ちだけが残っている。知人の撮影所を見に行った日、男爵は十年前に実家の女中をしていた「とみ」と再会する。とみは今や有名な女優だった。新橋で会った夜、励まされることに反発して席を立つ。数日後、手紙で呼ばれ、とみの家を訪れると、結婚の相談で、弟を説得してほしいと言う。男爵は怒って弟に説教するが、青年のほうが堂々と、まず自分自身の救済をと諭し、個人の努力を信じる新世代の言葉に男爵は感動する。弟はとみが仕掛けた作戦で、男爵の誠実さを確かめていたのだった。男爵は何も知らず意気込んで帰り、玄関に「忙中謝客」と貼り紙をする。

登場人物

冒頭部(原文より)

祝言の夜ふけ、新郎と新婦が将来のことを語り合っていたら、部屋の襖のそとでさらさら音がした。ぎょっとして、それから二人こわごわ這い出し、襖をそっとあけてみると、祝い物の島台に飾られてある伊勢海老が、まだ生きていて、大きな髭をゆるくうごかしていたのである。物音の正体を見とどけて、二人は顔を見合せ、それからほのぼの笑った。こんないい思い出を持ったこの夫婦は、末永くきっとうまくいくだろう。かならず、よい家を創始するにちがいない。  私がこれから物語ろうと思ういきさつの男女も、このような微笑の初夜を得るように、私は衷心から祈っている。

「花燭」太宰治(青空文庫)

末尾部(原文より)

男爵は、何も知らず、おそろしくいきごんで家へかえり、さて、別にすることもなく、思案の果、家の玄関へ、忙中謝客の貼紙をした。人生の出発は、つねにあまい。まず試みよ。破局の次にも、春は来る。桜の園を取りかえす術なきや。

「花燭」太宰治(青空文庫)

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