決戦川中島 上杉謙信の巻――越後守安吾将軍の奮戦記――(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
謙信がぼやく川中島
- 歴史
- 風刺
- 文字数
- 9,278字
- 読了目安
- 約19分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 長野県
- 新潟県
この作品について
1953年(昭和28年)、「別冊文藝春秋」に発表された坂口安吾のユーモア歴史小説。上杉謙信を一人称「余」で語らせ、永禄四年の川中島の戦いを、現代の事物(松代大本営やPTAの婦人連盟など)を平気でまじえながら、軽口の調子で描く。「サムライがイヤになる」謙信が、海辺で婦人たちの馬力に感服し、合戦へ向かう。
あらすじ
永禄四年七月三十日、上杉謙信は、従者の放善坊だけを連れて春日山城を降り、五智の海へ散歩に出た。関東遠征の疲れから将兵を戦野に再び駆り立てる気になれず、「余は時々サムライがイヤになる」というのだ。宿敵・武田信玄は、信義もなく術策ばかり弄する悪党だと謙信は考え、叩きのめしてやらないと気がすまない。放善坊に引っぱられて海辺の旅館に入った謙信は、日本海に面した砂丘から、下駄もはかず裸で海へ駆けだし、焦熱地獄のような砂の熱さに七転八倒する。そこへ五十人あまりのPTAの婦人連盟が下駄をはいて現れ、見事な泳ぎぶりを見せる。謙信は、その「馬力」に感じ入り、腹を決めて川中島へ出陣する。一万三千の兵を二手に分けて信濃に入り、善光寺で栗ヨーカンを食い、妻女山に陣を構える。松代大本営の跡を眺めながら、放善坊とやりとりを交わす。両軍の戦いは朝五時に始まり、謙信は信玄に太刀を浴びせるが、馬の尻を槍で突かれて遠ざかってしまう。敵に援軍が到着し、戦は夕方に終わった。
登場人物
- 上杉謙信 「余」として語る越後の大将。サムライがイヤになることがある
- 放善坊 謙信に従う新発意。軽口をたたく
- 武田信玄 謙信が「悪党」と呼ぶ宿敵
冒頭部(原文より)
永禄四年七月三十日。余(上杉謙信)はひそかに春日山城を降り五智の海へ散歩にでた。従う者は池田放善坊という新発意ただ一人。余は時々サムライがイヤになる。自分がサムライであることも、サムライの顔を見るのもイヤになることがあるのだ。この日は特にそうだった。 余はこの年の三月小田原を攻め、古河に公方を置きなどして、自らも病に倒れ、六月に至ってようよう帰国したばかりである。
「決戦川中島 上杉謙信の巻――越後守安吾将軍の奮戦記――」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
余の馬は敵陣のただ中を駈けぬけて、信玄の姿は遠く離れてしまったのである。 敵方に一万二千の援軍が馳せつけた。それからは我が軍の不利であった。夕頃、余は残兵をまとめて善光寺に退いて集合した。敵も兵力をまとめて海津城に入る。戦は朝五時にはじまり、夕方五時に終ったのである。わが軍は死者三千七百。負傷者六千。敵軍は死者四千六百、負傷者一万三千。 山蛸を逸す。悲しきかな。
「決戦川中島 上杉謙信の巻――越後守安吾将軍の奮戦記――」坂口安吾(青空文庫)
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