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きりしとほろ上人伝(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

最強の主君を探す山男

  • 幻想

芥川龍之介 1919年(大正8年)3月 「新小説」

文字数
12,294字
読了目安
約25分
表記
新字旧仮名
種別
小説

この作品について

芥川竜之介の切支丹物の一つ。聖クリストフォロスの伝説(『レゲンダ・アウレア』)を題材に、作者が「多少の潤色を加へた」と小序で断る翻案で、天草本『伊曾保物語』を思わせる「おぢやる」調の語り口を用いる。山男の「れぷろぼす」が最強の主君を求めて仕える相手を替えていく遍歴を描く。「新小説」に二回に分けて掲載され、のち『影燈籠』に収められた。

あらすじ

遠い昔、「しりあ」の山奥に、身の丈三丈あまりの心優しい山男「れぷろぼす」が住んでいた。杣たちの話から、天下無双の大将に仕えようと決め、頭に巣食う四十雀に別れて「あんちおきや」の帝に召し抱えられる。隣国との合戦では先陣を務め、敵の大将を投げ飛ばして大勝利を収め、大名の位を賜る。ところが祝宴の夜、帝が悪魔という言葉を聞くたびに十字を切るのを見て、悪魔のほうが強いと考え、悪魔に仕えると言い出して牢に入れられる。そこへ現れた緋の袍の学匠は悪魔の本性を明かし、れぷろぼすを抱えて空を飛び、「えじつと」の沙漠の隠者の庵に降りる。傾城に化けて隠者を誘惑するが十字架に打たれて退散し、れぷろぼすは隠者を訪ね、「えす・きりしと」に仕える道を問う。隠者は断食も不眠も無理と知ると、流沙河の渡し守になるよう勧め、水を授けて「きりしとほろ」と名づける。三年後の嵐の夜、白衣の童児を背負って川を渡るうち、童児はしだいに重くなり、きりしとほろは必死に向こう岸へたどり着く。童児は「おぬしは世界の苦しみを身に荷うた『えす・きりしと』を負うたのぢや」と告げる。翌朝、渡し守の姿はなく、岸に突き立てた太杖には紅の薔薇が咲いていた。

登場人物

冒頭部(原文より)

 遠い昔のことでおぢやる。「しりあ」の国の山奥に、「れぷろぼす」と申す山男がおぢやつた。その頃「れぷろぼす」ほどな大男は、御主の日輪の照らさせ給ふ天が下はひろしと云へ、絶えて一人もおりなかつたと申す。まづ身の丈は三丈あまりもおぢやらうか。葡萄蔓かとも見ゆる髪の中には、いたいけな四十雀が何羽とも知れず巣食うて居つた。まいて手足はさながら深山の松檜にまがうて、足音は七つの谷々にも谺するばかりでおぢやる。

「きりしとほろ上人伝」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

 その夜この方流沙河のほとりには、あの渡し守の山男がむくつけい姿を見せずなつた。唯後に残つたは、向うの岸の砂にさいた、したたかな柳の太杖で、これには枯れ枯れな幹のまはりに、不思議や麗しい紅の薔薇の花が、薫しく咲き誇つて居つたと申す。されば馬太の御経にも記いた如く「心の貧しいものは仕合せぢや。一定天国はその人のものとならうずる。」

「きりしとほろ上人伝」芥川龍之介(青空文庫)

名文

遠い昔のことでおぢやる。「しりあ」の国の山奥に、「れぷろぼす」と申す山男がおぢやつた。

本編の書き出し。切支丹版の語り口をまねた「おぢやる」調で、聖人伝を昔話のように語りはじめる。

「如何なこと、それがしは聞えた大飯食ひでおぢやる。中々断食などはなるまじい。」

信心の修行をすすめる隠者の翁に、大男れぷろぼすが答える言葉。素朴で正直な山男の人柄が、とぼけた可笑しみとともに伝わる。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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