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伯爵の釵(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

滝壺に捨てた千金の釵

  • 幻想

泉鏡花 1920年(大正9年)1月

文字数
19,404字
読了目安
約39分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 石川県

この作品について

旱の城下町を舞台にした幻想小説。1920年(大正9年)1月に発表された。地方巡業に来た花形の女優が、公園の森で癩の坊主に施しを求められ、伯爵から贈られた千金の釵を滝壺へ投げ捨てる。その心操に感じた者が「雨乞をなさるが可い」と告げ、やがて彼女は法壇に登ることになる。北陸の城下——鏡花の故郷金沢を思わせる土地を舞台に、女優の芸と信仰とが交錯する。

あらすじ

二筋の大川が流れ、真中に城の天守が聳える北陸の都。激しい旱の続く真夏に、女優を主とする帝都の大一座が七日間の興行をして、全市を湧かせた。楽の翌日、花形の紫玉は忍びで町を歩き、人気のない公園の森へ迷い込む。そこで土下座した癩の坊主に「お禁厭を」と縋られた紫玉は、伯爵から贈られた千金の釵を抜き、清水の滝壺へ投げ入れてやる。その心操に感じたという声が、「貴女、雨乞をなさるが可い」と告げた。成上りの豪族に請われるまま法壇に登った紫玉は、乙女の装いで舞い、やがて底知れぬ水の中へ身を投じることになる。

登場人物

冒頭部(原文より)

このもの語の起った土地は、清きと、美しきと、二筋の大川、市の両端を流れ、真中央に城の天守なお高く聳え、森黒く、濠蒼く、国境の山岳は重畳として、湖を包み、海に沿い、橋と、坂と、辻の柳、甍の浪の町を抱いた、北陸の都である。  一年、激しい旱魃のあった真夏の事。

「伯爵の釵」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

「纏頭をするぞ。それ、錦を着て行け。」  かなぐり脱いだ法衣を投げると、素裸の坊主が、馬に、ひたと添い、紺碧なる巌の聳つ崕を、翡翠の階子を乗るように、貴女は馬上にひらりと飛ぶと、天か、地か、渺茫たる広野の中をタタタタと蹄の音響。  蹄を流れて雲が漲る。……  身を投じた紫玉の助かっていたのは、霊沢金水の、巌窟の奥である。うしろは五十万坪と称うる練兵場。  紫玉が、ただ沈んだ水底と思ったのは、天地を静めて、車軸を流す豪雨であった。――  雨を得た市民が、白身に破法衣した女優の芸の徳に対する新たなる渇仰の光景が見せたい。

「伯爵の釵」泉鏡花(青空文庫)

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