沼(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
沼の底に咲く一輪の睡蓮
- 幻想
- 文字数
- 1,230字
- 読了目安
- 約2分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
沼のほとりを歩く「おれ」が、芦の向こうにあるはずの不思議な世界に憧れて身を投げる、幻想的な掌編。「昼か、夜か、それもおれにはわからない」という言葉が何度も繰り返され、ボードレールの詩やシモンズの紹介した「スマトラの忘れな艸」といった西洋文学の記憶が、夢のような景色に溶けこむ。末尾に大正九年三月とある。
あらすじ
おれは昼か夜かも分からないまま、この五、六日、芦の茂る沼のほとりを歩いている。芦の向こうには不思議な世界がある。耳には Invitation au Voyage の曲が絶え絶えに聞こえ、「スマトラの忘れな艸の花」の甘い匂いが漂ってくる。そこへ行くには沼の中へ入って探すしかない。おれは芦の中から沼に差し出た古い柳の上から、思い切って沼へ飛びこむ。芦がざわめき、水が呟き、青い焔が身のまわりを飛びちがう。おれの死骸は沼の底の泥に横たわった。水の下に不思議な世界があると思ったのは迷いだったのか、曲は沼の精の悪戯だったのかと思ううち、死骸の口から細い茎が一筋伸び始め、水面に届くと白い睡蓮が咲いた。これがおれの憧れていた不思議な世界だったのだな、とおれの死骸は思いながら、睡蓮の花をいつまでも仰ぎ見ていた。
登場人物
- おれ 沼の向こうの不思議な世界に憧れ、柳の上から身を投げる
冒頭部(原文より)
おれは沼のほとりを歩いてゐる。 昼か、夜か、それもおれにはわからない。唯、どこかで蒼鷺の啼く声がしたと思つたら、蔦葛に掩はれた木々の梢に、薄明りの仄めく空が見えた。
「沼」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
これがおれの憧れてゐた、不思議な世界だつたのだな。――おれの死骸はかう思ひながら、その玉のやうな睡蓮の花を何時までもぢつと仰ぎ見てゐた。
「沼」芥川龍之介(青空文庫)
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