瓜の涙(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
松並木の人待石に立つ書生
- 青春
- 幻想
- 文字数
- 10,248字
- 読了目安
- 約20分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 石川県
この作品について
1920年(大正9年)10月の日付をもつ短編。加賀の城下から金石の港へ通う松並木の「人待石」のほとりで、東京の学校を中退した貧しい学生が、炎天の下、春にひそかに見かけた美しい娘を思い返している。地元の古跡、名水、瓜畑の風景が、鮮やかな夏の景として描かれる。
あらすじ
炎天の並木道、金石の港へ通う途中の「人待石」に、久留米絣の若い学生・松野謹三が腰を下ろしている。故郷の家が焼け、父も亡くなって東京の学校を中退した彼は、七十の祖母と幼い弟を抱え、貸金の取り立てに港へ向かう途中だった。彼がそこで煙草を吸う理由は、この春、墓地の裏の桃畑で見かけた娘の記憶にあった。桃の花の下に立つ、気品ある十六、七の娘に、声をかけられたとたん、山の上から怒鳴る男の声に追い払われた。そのときの思いを胸に、彼は石に腰掛けて雲井桜の方を眺めている。そこへ、遊廓の女の一行が汗まみれで清水に群がってきて、男二人に追い立てられて水を飲み、肌を洗う。その中の、手拭を口にくわえて悄れる島田髷の若い女は、まさにあの桃畑の娘だった。謹三は思わず身震いする。そのとき港のほうで黒煙が立ちのぼり、人々が騒ぐ。やがて魚が松の梢から降ってきて、竜巻だと知れる。怯えた娘が謹三の袂にすがりつき、謹三は思わずその手をしっかり握った。
登場人物
- 松野謹三 学生。父を亡くし、貧しさに苦しむ
- 娘 桃畑で見かけた美しい娘。のちに、遊廓の女たちの一行にいる姿が見える
冒頭部(原文より)
年紀は少いのに、よっぽど好きだと見えて、さもおいしそうに煙草を喫みつつ、……しかし烈しい暑さに弱って、身も疲れた様子で、炎天の並木の下に憩んでいる学生がある。 まだ二十歳そこらであろう、久留米絣の、紺の濃く綺麗な処は初々しい。けれども、着がえのなさか、幾度も水を潜ったらしく、肘、背筋、折りかがみのあたりは、さらぬだに、あまり健康そうにはないのが、薄痩せて見えるまで、その処々色が褪せて禿げている。――茶の唐縮緬の帯、それよりも煙草に相応わないのは、東京のなにがし工業学校の金色の徽章のついた制帽で、巻莨ならまだしも、喫んでいるのが刻煙草である。
「瓜の涙」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
「どうしましょうねえ。」 と引いて縋る、柔い細い手を、謹三は思わず、しかと取った。 ――いかになるべき人たちぞ…
「瓜の涙」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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