風野又三郎(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
どっどどどどうど どどうど
- 幻想
- 青春
- 文字数
- 31,633字
- 読了目安
- 約1時間3分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 岩手県
この作品について
「風の又三郎」の先駆形にあたる童話。谷川の岸の小さな学校に転校してきた赤毛の子は、こちらでは自分が風の精であることを最初から明かし、世界じゅうの風の話を子どもたちに語って聞かせる。完成稿では削られた、風そのものの自由と孤独が正面から描かれており、二作を読み比べる楽しみのある一編である。
あらすじ
「どっどどどどうど どどうど どどう、/ああまいざくろも吹きとばせ」——九月一日の朝、谷川の岸の小さな学校の教室に、誰も知らない赤い髪の子がすまして座っていた。嘉助たちが騒ぐうち、その子は自分が風の又三郎だと名のる。風の精であり、世界じゅうを吹きめぐる者だというのだ。それから毎日、又三郎は放課後の子どもたちを相手に、自分の見聞きしてきたことを語って聞かせる。高い空の風の話、上層の気流のこと、ロシアやアメリカやインド洋で吹いたときのこと、稲を倒して人に憎まれたこと、なぜ風が吹くのかという理屈まで——一郎や嘉助たちは、驚いたり張り合ったり、ときには怒ったりしながら、その話に引きこまれてゆく。子どもたちと一緒に葡萄をとり、川で泳ぎ、野原を駆ける日々のなかで、又三郎はしだいに彼らの仲間になってゆくが、風である以上ひとところにとどまることはできない。ある嵐の朝、又三郎はいなくなっていた。「ドッドドドドウドドドウドドドウ、あまいざくろも吹きとばせ」——一郎が叫ぶと、遠くの風の中から歌が返ってくる。「さよなら、一郎さん」。かきねのずっと向こうで又三郎のガラスマントがぎらっと光り、赤い頬と乱れた赤毛がちらっと見えたと思うと、もうすうっと見えなくなって、ただ雲がどんどん飛ぶばかりだった。
登場人物
- 又三郎 風の精。赤い髪とガラスマントの子ども
- 一郎 六年生。子どもたちの兄貴分
- 嘉助 又三郎に食ってかかる少年
冒頭部(原文より)
どっどどどどうど どどうど どどう、 ああまいざくろも吹きとばせ すっぱいざくろもふきとばせ どっどどどどうど どどうど どどう 谷川の岸に小さな四角な学校がありました。 学校といっても入口とあとはガラス窓の三つついた教室がひとつあるきりでほかには溜りも教員室もなく運動場はテニスコートのくらいでした。
「風野又三郎」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
一郎は声の来た栗の木の方を見ました。俄かに頭の上で 「さよなら、一郎さん、」と云ったかと思うとその声はもう向うのひのきのかきねの方へ行っていました。一郎は高く叫びました。 「又三郎さん。さよなら。」 かきねのずうっと向うで又三郎のガラスマントがぎらっと光りそれからあの赤い頬とみだれた赤毛とがちらっと見えたと思うと、もうすうっと見えなくなってただ雲がどんどん飛ぶばかり一郎はせなか一杯風を受けながら手をそっちへのばして立っていたのです。
「風野又三郎」宮沢賢治(青空文庫)
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