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蜘蛛の糸(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

地獄に垂らされた一本の糸

  • 幻想

芥川龍之介 1918年(大正7年)7月 「赤い鳥」

文字数
2,869字
読了目安
約6分
表記
新字新仮名

この作品について

1918年(大正7年)7月、鈴木三重吉が創刊した児童文芸雑誌『赤い鳥』の創刊号に発表された、芥川龍之介の童話。極楽の蓮池から地獄をのぞいた御釈迦様が、大泥棒の犍陀多に目をとめ、彼がかつて小さな蜘蛛を助けたことを思い出すところから始まる。語りかけるような丁寧な文章を用いながら、白い蓮や銀色の糸が輝く極楽と、暗い血の池を対照的に描き、短い物語に鮮明な奥行きを与えている。材源として知られるのは、宗教研究者ポール・ケーラスの『カルマ』を鈴木大拙が訳した『因果の小車』の一編である。仏教的な世界を借りた物語が、海外での創作と翻訳を経て、芥川の児童文学へつながっている点も興味深い。善い行いと救い、人が他者を思いやることをめぐる問いを含み、翌1919年には作品集『傀儡師』に収録された。

あらすじ

ある日、御釈迦様は極楽の蓮池のふちから、地獄の血の池の底にいる犍陀多という大泥棒に目をとめる。生前数々の悪事を働いた犍陀多だが、ただ一度、踏み殺しかけた小さな蜘蛛を助けてやったことがあった。その善行を思い出した御釈迦様は、蓮の葉にかかっていた蜘蛛の糸を一筋、血の池の底へそっと垂らしてやる。糸を見つけた犍陀多は歓喜し、必死によじ登り始めるが、途中でふと下を見ると、無数の罪人たちが我先にと同じ糸をよじ登ってくる。糸が切れることを恐れた犍陀多は自分の糸だと叫び、下の罪人たちに下りろと怒鳴る。その瞬間、犍陀多のぶら下がっていた所から糸がぷつりと切れ、彼は再び血の池の底へ真っ逆さまに落ちていく。一部始終を見ていた御釈迦様は、犍陀多の無慈悲な心を悲しそうな顔で見つめながら、また蓮池のふちを歩き始めるのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。

「蜘蛛の糸」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

御釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがて陀多が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな御顔をなさりながら、またぶらぶら御歩きになり始めました。自分ばかり地獄からぬけ出そうとする、陀多の無慈悲な心が、そうしてその心相当な罰をうけて、元の地獄へ落ちてしまったのが、御釈迦様の御目から見ると、浅間しく思召されたのでございましょう。しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。その玉のような白い花は、御釈迦様の御足のまわりに、ゆらゆら萼を動かして、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽ももう午に近くなったのでございましょう。

「蜘蛛の糸」芥川龍之介(青空文庫)

名文

ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。

極楽の御釈迦様の朝を描く、童話のようにやさしい書き出し。地獄に垂らされた一筋の糸をめぐる寓話が始まる。

こら、罪人ども。この蜘蛛の糸は己のものだぞ。お前たちは一体誰に尋いて、のぼって来た。下りろ。下りろ。

糸を上ってくる罪人たちへ陀多が叫ぶ場面。この一言で糸はぷつりと切れ、彼は再び地獄へ落ちていく。

しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。その玉のような白い花は、御釈迦様の御足のまわりに、ゆらゆら萼を動かして、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽ももう午に近くなったのでございましょう。

糸が切れてカンダタが地獄へ落ちたあとの結び。人間の悲劇に少しも頓着しない極楽の静けさを描いて、冒頭の蓮池の場面へ円を描くように戻っていく。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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