狂言の神(太宰治)のあらすじ・登場人物
死に損ねた作家の一夜
- 心理
- 文字数
- 15,479字
- 読了目安
- 約31分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 神奈川県
この作品について
1936年(昭和11年)10月、雑誌「東陽」に発表された短編。亡き畏友・笠井一の遺稿の履歴書から始まる追悼文の体裁をとりながら、語りはやがて作家自身の話へとすり替わり、就職試験に落ちた作家が銀座で散財し、江の島、鎌倉をさまよい、ついに縊死を試みる一夜を、饒舌でほら吹きめいた文体で描く。作者の自殺未遂の体験が背景にあるとされる。
あらすじ
「私」は亡き畏友・笠井一の履歴書の下書きを見つけ、涙する。笠井は新聞社の就職試験に落ちて縊死したのだという。語りは次第に、笠井も私も太宰治ひとりの話だと明かされる。就職に落ちた帝大生の私は、生活費の小切手を持ち出して銀座で飲み、歌舞伎座、浅草の食堂、見知らぬ商人を久保田万太郎と取り違える一幕などを経て散財し、本牧のホテルに泊まる。翌日は七年前に情死をはかった江の島に向かうが、人が多くて死ねず、鎌倉で作家・深田久弥の家に寄って将棋を指し、気持ちを落ち着ける。夜、鎌倉の山の小さな鳥居のある崖の上で縊死を試みるが、苦しさに耐えかねて枝にしがみつき、助かる。外国煙草を吸いながら、煙草のおいしさに小市民の生活への未練を感じ、「なあんだ」と結ぶ。
登場人物
- 私(太宰治) 就職試験に落ちた帝大生。笠井一の名で自分を語る
- 笠井一 私が追悼する形をとる、もう一人の作家
- 深田久弥 鎌倉に住む作家。私と将棋を指す
冒頭部(原文より)
今は亡き、畏友、笠井一について書きしるす。 笠井一。戸籍名、手沼謙蔵。明治四十二年六月十九日、青森県北津軽郡金木町に生れた。亡父は貴族院議員、手沼源右衛門。母は高。謙蔵は、その六男たり。同町小学校を経て、大正十二年青森県立青森中学校に入学。昭和二年同校四学年修了。同年、弘前高等学校文科に入学。昭和五年同校卒業。同年、東京帝大仏文科に入学。若き兵士たり。恥かしくて死にそうだ。眼を閉じるとさまざまの、毛の生えた怪獣が見える。なあんてね。笑いながら厳粛のことを語る。と。
「狂言の神」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
ああ、思いもかけず、このお仕合せの結末。私はすかさず、筆を擱く。読者もまた、はればれと微笑んで、それでも一応は用心して、こっそり小声でつぶやくことには、 ――なあんだ。
「狂言の神」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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