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老嫗面(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

母の無表情と家の憎悪

  • 家族
  • 心理

坂口安吾 1936年(昭和11年)10月 「文芸通信」

文字数
19,263字
読了目安
約39分
表記
新字旧仮名
種別
小説

この作品について

病身の娘タツノを酒場から引き取った安川と、その妻松江、そして金を握って冷たい無表情を崩さない母おたきの三者を描く、坂口安吾の初期の中編。母の家に寄食する夫婦の憎しみ、夫が思いつきで連れ込んだ病気の娘への妻の嫉妬、友人遠山による長い心理分析が、緊張した文体で重ねられる。結末には母の「無表情」が重く残る。一部に伏せ字がある。

あらすじ

安川は妻の松江とともに、兄の遺児たちの金を守る母おたきの家に居候している。おたきは、かつて盲腸炎で金に困った夫婦に売薬を渡しただけで冷たくあしらった女で、子供の頃の安川が飯櫃をひっくり返したときも、怪我より飯の無駄に腹を立てて物置に閉じ込めた。その母の前では、居候の生活は刑務所に似て、何の刺激もなかった。ある昼、安川は肺を病んだ酒場の娘タツノを、衝動的に家へ引き取る。松江は呆然とし、タツノの伯父の工場があるという嘘が破れて騒ぎになり、二人の間には嫉妬と憎しみが渦を巻く。松江は友人の遠山を訪ね、安川の行動は無意味な課題で生きている実感を得ようとする焦りだ、と冷静に分析される。やがて松江は、実は自分が遠山に惹かれているために夫を責めるのだと気づく。安川はタツノに献身するうち、その痩せた体に劣情を覚え、そのことに自己嫌悪を深めていく。ある夏の真昼、安川は書斎で兵児帯を使って首をくくって死んでしまう。駆けつけた人々の中で、母のおたきは冷静に自分が下ろすと言って屍体のうしろにつく。松江は、その老婆の振る舞いと無表情に怯え、遠山にそのことを話す。遠山は、生きぬくからには誰かの首を引っ張っているのだ、と退屈そうに言う。

登場人物

冒頭部(原文より)

 初夏のうららかなまひるであつた。安川はタツノの着物をつめこんだ行李を背負つて我家へむかつた。安川のうしろには、タツノが小さな手荷物をさげ、うはづつた眼付をしてぼんやり歩いてゐた。タツノのうしろには彼女の三人の朋輩が、一人はあくどい紫色の女持トランクをぶらさげ、あとの二人は異体の知れない大包のみそれぞれ一端をつるしあげながら、からみあつてねり歩いてきた。露路の奥から子供の群が駈けだしてきて声援しながら見送るほどの盛大な引越であつた。

「老嫗面」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 野辺の送りもすんでから、松江は改めて遠山に会ひ、日のたつにつれ益々まざまざ眼先にちらつく悪鬼の相に怯えながら、首つくくりの××××××老婆の話を物語つた。  遠山もこの話にはちよつと呆れたやうだつた。然し彼は暫くぼんやり考へ耽つてゐたあとで、 「だつて僕等が生きぬくからには、どつちみち首をくくつた誰か×××グッと引つぱつてゐるのですよ」  と、退屈さうな顔をして、夢のやうなことを言つた。

「老嫗面」坂口安吾(青空文庫)

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