卍(谷崎潤一郎)のあらすじ・登場人物
大阪言葉で語る卍のもつれ
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 133,507字
- 読了目安
- 約4時間27分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 大阪府
- 兵庫県
この作品について
谷崎潤一郎が1928年(昭和3)から雑誌『改造』に断続的に連載した長編小説。大阪の弁護士夫人・柿内園子が「先生」に身の上を打ち明ける告白体で、全編が柔らかな大阪言葉で語られる。園子と、妖艶な美貌の娘・徳光光子との同性愛に、園子の夫や光子につきまとう男がからみ、四人の関係が卍の形にもつれていく。関西移住後の谷崎が上方の言葉と風俗を取り込んだ代表作の一つで、耽美と背徳を描いた問題作として名高い。
あらすじ
大阪の弁護士夫人・柿内園子は、通い始めた天王寺の技芸学校で、船場の問屋の娘・徳光光子と知り合う。観音菩薩の絵のモデルにしたという噂を立てられたことをきっかけに二人は急速に親しくなり、やがて同性愛の関係に落ちる。光子には綿貫という恋人めいた男がいたが、綿貫は光子を独占する力を持たず、園子と奇妙な誓約を結んで二人の関係に食い込んでくる。さらに園子の夫・孝太郎までもが光子の魅力に籠絡され、四人の関係は嘘と駆け引きの入り乱れる泥沼と化す。狂言自殺や新聞沙汰の末に追い詰められた園子・孝太郎・光子の三人は毒を仰いで心中を図るが、園子ひとりが生き残る。園子は、自分だけが取り残されたのは二人に欺かれていたためではないかという疑いに苦しみながら、今もなお光子を恋しく思い続けるのだった。
登場人物
- 柿内園子 大阪の弁護士夫人。技芸学校で光子と出会い、その美貌の虜となる語り手
- 徳光光子 船場の問屋の娘。男女を問わず周囲を魅了し支配する妖艶な美貌の女性
- 柿内孝太郎 園子の夫。堅物の弁護士だったが、やがて自身も光子に籠絡される
- 綿貫栄次郎 光子につきまとう青年。虚言を重ねて園子たちの関係に食い込む
冒頭部(原文より)
先生、わたし今日はすっかり聞いてもらうつもりで伺いましたのんですけど、折角お仕事中のとこかまいませんですやろか? それはそれは詳しいに申し上げますと実に長いのんで、ほんまにわたし、せめてもう少し自由に筆動きましたら、自分でこの事何から何まで書き留めて、小説のような風にまとめて、先生に見てもらおうか思たりしましたのんですが、……実はこないだ中ひょっと書き出して見ましたのんですが、何しろ事件があんまりこんがらがってて、どういう風に何処から筆着けてええやら、とてもわたしなんぞには見当つけしません。そんでやっぱり先生にでも聞いてもらうより仕様ない思いましてお邪魔に出ましたのんですけど、でも先生わたしのために大事な時間滅茶々々にしられておしまいになって、えらい御迷惑でございますやろなあ。ほんまに宜しございますか?
「卍」谷崎潤一郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
はあ? そら、そうですねん、何でその時、私だけ一人残されるいうこと思いましたやろ、明くる日眼エ覚ました時にも、直きに二人の跡追おう思いましてんけど、ひょッとしたら、生き残ったん偶然やないかも分れへん、死ぬまで二人に欺されてたのんやないやろかいう気イしましたら、あの手紙の束預けなさったことにしたかて疑がわしいになって来て、折角死んでも彼の世で邪魔にしられるのんやないかと、ああ、……先生、(柿内未亡人は突然はらはらと涙を流した。)……その疑がいさいなかったら、……今日までおめおめ生きてる私やあれしませんねんけど、……そうかて死んでしもた人恨んだとこで仕方あれしませんし、今でも光子さんのこと考えたら「憎い」「口惜しい」思うより恋しいて恋しいて、……ああ、どうぞ、どうぞ、こない泣いたりしまして堪忍して下さい。……
「卍」谷崎潤一郎(青空文庫)
名文
先生、わたし今日はすっかり聞いてもらうつもりで伺いましたのんですけど、折角お仕事中のとこかまいませんですやろか?
谷崎潤一郎『卍』の書き出し。園子が「先生」に身の上を語り始める関西弁の告白体で、一気に物語へ引き込む。
原文を読む
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