メリイクリスマス(太宰治)のあらすじ・登場人物
うなぎ屋に並んだ三つの皿
- 心理
- 文字数
- 6,563字
- 読了目安
- 約13分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
戦後の東京での再会を描いた短編。1947年(昭和22年)1月、雑誌「中央公論」に発表された。津軽から東京へ戻った「私」が、本屋の店先で昔なじみの母娘の、娘のほうと偶然に出会う。母に会えると弾む心のまま、娘の案内でバラックのアパートまで歩くのだが——。かるい戯文の調子で進む、後期の名短編。
あらすじ
一年三箇月の疎開生活を終えて東京に戻った「私」は、相変らずの東京の街々を歩き回っていた。十二月のはじめ、映画を見た帰りに立ち寄った本屋で、真赤なレンコオトの若い女に名を呼ばれる。昔なじみの、あの母娘のシズエ子ちゃんだった。私は露店で南京豆を三袋買い、お母さんを引っぱり出して大いに飲もうと言って、娘の案内でバラックのアパートまで歩く。娘が歩一歩おとなびて元気を失っていくのを、母への嫉妬だと私は自惚れて解釈していた。ドアの前で私が大声で呼びかけると、娘は棒立ちになり、いきなり泣き出す。母は広島の空襲で死んだのだという。私たちは駅の近くのうなぎ屋の屋台へ行き、小串を三人前、酒を三つ注文した。
登場人物
- 私(笠井) 津軽から東京へ戻って来た作家
- シズエ子 私の昔なじみの母娘の、娘のほう。本屋で偶然に再会する
- 母 シズエ子の母。私と同い年で、広島の空襲で死んでいた
- 屋台の紳士 うなぎ屋の奥で飲み、通りの米兵に大声で呼びかける男
冒頭部(原文より)
東京は、哀しい活気を呈していた、とさいしょの書き出しの一行に書きしるすというような事になるのではあるまいか、と思って東京に舞い戻って来たのに、私の眼には、何の事も無い相変らずの「東京生活」のごとくに映った。 私はそれまで一年三箇月間、津軽の生家で暮し、ことしの十一月の中旬に妻子を引き連れてまた東京に移住して来たのであるが、来て見ると、ほとんどまるで二三週間の小旅行から帰って来たみたいの気持がした。
「メリイクリスマス」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
紳士は、ふいと私の視線をたどって、そうして、私と同様にしばらく屋台の外の人の流れを眺め、だしぬけに大声で、 「ハロー、メリイ、クリスマアス。」 と叫んだ。アメリカの兵士が歩いているのだ。 何というわけもなく、私は紳士のその諧ぎゃくにだけは噴き出した。 呼びかけられた兵士は、とんでもないというような顔をして首を振り、大股で歩み去る。 「この、うなぎも食べちゃおうか。」 私はまんなかに取り残されてあるうなぎの皿に箸をつける。 「ええ。」 「半分ずつ。」 東京は相変らず。以前と少しも変らない。
「メリイクリスマス」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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