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未帰還の友に(太宰治)のあらすじ・登場人物

酒を飲んでも酔えぬ友の便り

  • 青春
  • 心理

太宰治 1946年(昭和21年)5月 「潮流」

文字数
10,241字
読了目安
約20分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

太宰治が1946(昭和21)年5月に『潮流』に発表した短編。戦地へ向かう途中の友人「君」と上野駅で再会した日のことと、二人が行きつけのおでん屋に仕掛けたささやかな悪ふざけが、思わぬ後味を残したいきさつを、「君」への呼びかけの文体で回想する。酒の乏しくなった戦時下の暮らしを背景に、帰らぬ友を待つ語り手の思いが滲む。

あらすじ

昭和十八年の早春、戦地へ向かう友人「君」から「アス五ジ ウエノツク」と電報を受けた「僕」は、寒い上野駅の改札口で、三時間遅れた汽車を待つ。幹部候補生の列から抜けて駆けてきた君は、訛りの強くなった口調で、ノオと言える勇気こそ生活人の強さだと語る。出発までは三時間ほどしかなく、吉祥寺のバーまでは行けない。二人は上野公園の茶店の主人に頼み込み、床下に隠してあった晩酌用のウィスキーを分けてもらって別れの盃を交わす。君は、高円寺のおでん屋「菊屋」の娘マサ子のことを打ち明ける。酒が手に入りにくくなったころ、「僕」たちは岡野金右衛門の色仕掛けにならい、美男の君とマサ子の縁談をでっち上げて菊屋から酒を引き出そうとしたことがあった。ところが君の入営後、マサ子から手紙が届いて文通が始まり、君はもともと本気で好きだったという。だが戦地へ行く身で、あえて「ノオ」と言わねばならぬと悟り、悪ふざけの経緯をすべて書いた絶縁の手紙を出したのだった。別れの日の帰りに「僕」が菊屋を訪ねると、一家はすでに田舎へ引き上げていた。半年後に南方から飛行郵便が届いたのを最後に君の便りは絶え、空襲で二度罹災して津軽の実家の居候となった「僕」は、君たち全員が元気で帰還するまでは、酒を飲んでも酔えない気持ちでいる。

登場人物

冒頭部(原文より)

君が大学を出てそれから故郷の仙台の部隊に入営したのは、あれは太平洋戦争のはじまった翌年、昭和十七年の春ではなかったかしら。それから一年経って、昭和十八年の早春に、アス五ジ ウエノツクという君からの電報を受け取った。  あれは、三月のはじめ頃ではなかったかしら。何せまだ、ひどく寒かった。僕は暗いうちから起きて、上野駅へ行き、改札口の前にうずくまって、君もいよいよ戦地へ行くことになったのだとひそかに推定していた。遠慮深くて律義な君が、こんな電報を僕に打って寄こすのは、よほどの事であろう。戦地へ出かける途中、上野駅に下車して、そこで多少の休憩の時間があるからそれを利用し、僕と一ぱい飲もうという算段にちがいないと僕は賢察していたのである。もうその頃、日本では、酒がそろそろ無くなりかけていて、酒場の前に行列を作って午後五時の開店を待ち、酒場のマスタアに大いにあいそを言いながら、やっと半合か一合の酒にありつけるという有様であった。

「未帰還の友に」太宰治(青空文庫)

末尾部(原文より)

それからも僕は、君に手紙を書き、また雑誌なども送ってやったが、君からの返事は、ぱったり無くなった。そのうちに、れいの空襲がはじまり、内地も戦場になって来た。僕は二度も罹災して、とうとう、故郷の津軽の家の居候という事になり、毎日、浮かぬ気持で暮している。君は未だに帰還した様子も無い。帰還したら、きっと僕のところに、その知らせの手紙が君から来るだろうと思って待っているのだが、なんの音沙汰も無い。君たち全部が元気で帰還しないうちは、僕は酒を飲んでも、まるで酔えない気持である。自分だけ生き残って、酒を飲んでいたって、ばからしい。ひょっとしたら、僕はもう、酒をよす事になるかも知れぬ。

「未帰還の友に」太宰治(青空文庫)

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