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さぶ(山本周五郎)のあらすじ・登場人物

濡れ衣を着せられた職人と友情

  • 心理
  • 青春

山本周五郎 1963年(昭和38年)1月 「週刊朝日」

文字数
210,597字
読了目安
約7時間1分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

山本周五郎が1963年(昭和38年)、「週刊朝日」に連載した長編。江戸の経師屋(表具師)を舞台に、腕はよいが気位の高い若い職人・栄二と、鈍重で不器用な朋輩・さぶの友情を描く。得意先の品をめぐる盗みの濡れ衣を着せられ、人足寄場に送られた栄二のもとに、さぶの変わらぬ誠実さや、彼を案じる女たちの情が寄せられる。人はひとりでは生きられぬこと、人を信じ赦すことの尊さを、下町の職人の世界に託して描いた、周五郎の代表作のひとつである。

あらすじ

江戸・下谷の経師屋「芳古堂」で修業する栄二とさぶは、住み込みの朋輩どうしである。栄二は器量よく腕も立ち、負けん気が強い。さぶは躯つきも頭の働きも鈍く、人に馬鹿にされてばかりだが、栄二を兄のように慕っている。二人が一人前の職人になろうとする矢先、栄二は得意先で預かった品をめぐって盗みの疑いをかけられ、身の証を立てられぬまま石川島の人足寄場へ送られてしまう。無実の罪に落とされた栄二は、世の中と人間のすべてを憎み、心を鎧って荒れ狂う。寄場の荒くれたちと衝突し、意固地に孤立してゆく栄二を、それでもさぶは信じて疑わず、たびたび島へ会いに来る。栄二に想いを寄せるおすえや、彼の身を親身に案じるおのぶら、まわりの女たちの変わらぬまごころにも、栄二は初めのうち背を向け続ける。だが、寄場で出会う人々の生きざまや、自分を見限らない者たちの情に触れるうち、頑なだった心の氷は少しずつ溶けはじめる。やがて濡れ衣の真相も明らかになり、人を信じ、赦し、支えあって生きることの意味を知った栄二は、生き直す力を得て寄場を出る。物語の終わり、雨戸の外にさぶの声が響く。

登場人物

冒頭部(原文より)

 小雨が靄のようにけぶる夕方、両国橋を西から東へ、さぶが泣きながら渡っていた。  双子縞の着物に、小倉の細い角帯、色の褪せた黒の前掛をしめ、頭から濡れていた。雨と涙とでぐしょぐしょになった顔を、ときどき手の甲でこするため、眼のまわりや頬が黒く斑になっている。ずんぐりした躯つきに、顔もまるく、頭が尖っていた。――彼が橋を渡りきったとき、うしろから栄二が追って来た。

「さぶ」山本周五郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

 そのとき、表の雨戸を叩く音がした。 「栄ちゃん」と外で人の声がした、「いるかい、栄ちゃん、いま帰ったよ」 「さぶだ」と栄二が云った。 「勘弁してくれよ栄ちゃん」と雨戸の外で云うのが聞えた、「おふくろがいま息をひきとるか、いまひきとるかっていうありさまで、つい今日まで延び延びになっちまったんだ、悪かったよ栄ちゃん、勘弁してくれ、おらだよ、ここをあけてくんな、さぶだよ」

「さぶ」山本周五郎(青空文庫)

名文

小雨が靄のようにけぶる夕方、両国橋を西から東へ、さぶが泣きながら渡っていた。

山本周五郎『さぶ』の書き出し。両国橋を泣きながら渡るさぶと、追ってくる栄二の、二人の対照が最初の場面で描かれる。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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