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みみずく通信(太宰治)のあらすじ・登場人物

講演旅行の恥を打ち明ける手紙

  • 心理
  • 風刺

太宰治 1941年(昭和16年)1月 「知性」

文字数
5,850字
読了目安
約12分
表記
新字新仮名
種別
随筆
舞台
  • 新潟県

この作品について

太宰治が1941(昭和16)年1月に『知性』に発表した書簡体の小品。友人に宛てた手紙のかたちで、新潟の高等学校に招かれて講演をした一日を報告する。ラジオで自作の小説が放送されたときの気恥ずかしさ、生徒たちとの座談、夕暮れの日本海と洋食屋での晩餐が、自嘲まじりの調子で語られる。

あらすじ

「無事、大任を果しました」と、語り手は友人に宛てて書き出す。大任とは、新潟の高等学校での二時間近い講演である。先日ラジオで自作の甘い小説が放送されたときも隠しておきたかったのに知られてしまったので、今度は洗いざらい報告するという。駅に迎えに来た生徒たちと旅館まで歩き、久留米絣に袴という姿で学校へ向かう。用意もなく、持参した創作集から「思い出」の一章と「走れメロス」を読み、私小説や告白の限度、友情や素朴な信頼について、水を飲み飲み話す。座談会では質問が少なく、思いつくままに独白のような話をして、力ない笑い声のうちに終わる。謝礼の包みを受け取ったあと、生徒たちと日本海へ出て、佐渡が横たわる黒い海と沈みかけた夕日を眺め、夕日には疲れた魚の匂いがあると言う。明治初年にイタリア人が創った洋食屋イタリヤ軒で晩餐を共にした生徒たちからは、「案外、常識家ですね」と言われる。その後ひとりで酒を飲みに入った家で、女のひとに「剣道の先生でしょう?」と言われたことを書き添え、あしたは天気なら佐渡へ行ってみるつもりだと結ぶ。

冒頭部(原文より)

無事、大任を果しました。どんな大任だか、君は、ご存じないでしょう。「これから、旅に出ます。」とだけ葉書にかいて教え、どこへ何しに行くのやら君には申し上げていなかった。てれくさかったのです。また、君がそれを知ったら、れいの如く心配して何やらかやら忠告、教訓をはじめるのではないかと思い、それを恐れて、わざと目的は申し上げずに旅に出ました。先日、私の甘い短篇小説が、ラジオで放送された時にも、私は誰にも知られないように祈っていました。ことにも、君に聞かれては、それこそ穴あらば這入らなければならぬ気持でした。なかなか、あまい小説でした。私はいつも、けちけちしている癖に、ざらざら使い崩すたちなので、どうしてもお金が残りません。一文おしみの百失いとでもいうものなのでしょうか。

「みみずく通信」太宰治(青空文庫)

末尾部(原文より)

生徒たちと、わかれてから、私は、ほんの少し酒を飲みに、或る家へはいりました。そこの女のひとが私の姿を見て、 「あなた、剣道の先生でしょう?」と無心に言いました。  剣道の先生は、真面目な顔をして、ただいま宿へ帰り、袴を脱ぎ、すぐ机に向って、この手紙に取りかかりました。雨が降って来ました。あしたお天気だったら、佐渡ヶ島へ行ってみるつもりです。佐渡へは前から行ってみたいと思っていました。こんど新潟高校から招待せられ、出かけて来たのも、実は、佐渡へ、ついでに立ち寄ってみたい下心があったからでした。講演は、あまり修行にもなりません。剣道の先生も、一日限りでたくさん也。みみずくの、ひとり笑いや秋の暮。其角だったと思います。十一月十六日夜半。

「みみずく通信」太宰治(青空文庫)

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