三つの宝(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
御伽噺の国からは出て行こう
- 幻想
- 文字数
- 7,234字
- 読了目安
- 約14分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
芥川が書いた数少ない童話劇の一つ。千里を飛ぶ長靴・姿の消えるマントル・鉄をも断つ剣という三つの宝をめぐる三幕物で、盗人にまんまと偽物をつかまされた王子が、それでも王女を助けに行く。おとぎ話の型を借りながら、そこから踏み出そうとする芥川らしい仕掛けが置かれている。
あらすじ
森の中で三人の盗人が宝を奪い合っている。千里を飛ぶ長靴、着れば姿の消えるマントル、鉄をも断つ剣——いずれも見たところは古道具である。通りかかった王子は仲裁を買って出て、自分の立派な長靴とマントルと剣を差し出し、三つの宝と取り替えて去ってゆく。盗人たちは「うまい商売をしたな」と嘲笑った。宿屋の酒場で王子が聞いたのは、この国の王女が黒ん坊の王のもとへ嫁がされるという噂だった。黒ん坊の王は本物の三つの宝を献上し、欲の深い王がそれと引き換えに娘をやると約束したのだという。王女を助けると名乗り出た王子は、さっそく長靴で飛んでみせようとして尻餅をつき、一同に笑われる。それでも彼は下男に化けて城へ入りこみ、王女の前に立つ。穴のあいた長靴は一町も飛ばないが、王女と一緒ならば千里も二千里も驚かない。マントルは姿を隠さないが、王子らしさだけは隠してくれた。ついに剣を抜いた黒ん坊の王は、王子の剣をたやすく断ち切りながら、それでも笑っている相手を前にして剣を投げ捨てる——三つの宝があれば王女を得られると思ったのは間違いだった、と。
登場人物
- 王子 三人の盗人から三つの宝を買い取り、姫を救いに向かう
- 三人の盗人 森の中で三つの宝を奪い合っている
- 黒ん坊の王 姫をさらった王。物語の悪役のはずだったが
- 王女 さらわれた姫
冒頭部(原文より)
一 森の中。三人の盗人が宝を争っている。宝とは一飛びに千里飛ぶ長靴、着れば姿の隠れるマントル、鉄でもまっ二つに切れる剣――ただしいずれも見たところは、古道具らしい物ばかりである。 第一の盗人 そのマントルをこっちへよこせ。 第二の盗人 余計な事を云うな。その剣こそこっちへよこせ。――おや、おれの長靴を盗んだな。 第三の盗人 この長靴はおれの物じゃないか? 貴様こそおれの物を盗んだのだ。 第一の盗人 よしよし、ではこのマントルはおれが貰って置こう。 第二の盗人 こん畜生! 貴様なぞに渡してたまるものか。 第一の盗人 よくもおれを撲ったな。――おや、またおれの剣も盗んだな? 第三の盗人 何だ、このマントル泥坊め! 三人の者が大喧嘩になる。
「三つの宝」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
王子 そうです。(見物に向いながら)皆さん! 我々三人は目がさめました。悪魔のような黒ん坊の王や、三つの宝を持っている王子は、御伽噺にあるだけなのです。我々はもう目がさめた以上、御伽噺の中の国には、住んでいる訣には行きません。我々の前には霧の奥から、もっと広い世界が浮んで来ます。我々はこの薔薇と噴水との世界から、一しょにその世界へ出て行きましょう。もっと広い世界! もっと醜い、もっと美しい、――もっと大きい御伽噺の世界! その世界に我々を待っているものは、苦しみかまたは楽しみか、我々は何も知りません。ただ我々はその世界へ、勇ましい一隊の兵卒のように、進んで行く事を知っているだけです。 (大正十一年十二月)
「三つの宝」芥川龍之介(青空文庫)
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