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毛利先生(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

笑われた老教師の面影

  • 心理
  • 青春

芥川龍之介 1919年(大正8年)1月 「新潮」

文字数
12,384字
読了目安
約25分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

歳末に、友人の批評家が語る中学時代の英語教師毛利先生の思い出を、「自分」が書きとめる形式の短編。先生を侮った生徒の側の視点から、年月を経た再会までが描かれる。「新潮」に発表された。

あらすじ

歳末の夕暮れ、「自分」は友人の批評家と歩きながら、友人の中学時代の英語教師毛利先生の思い出を聞く。休暇中に若い英語教師が急死し、後任に私立中学の老教師毛利が嘱託される。背が低く禿げ頭で、古いモーニングに紫の襟飾をつけた先生は、発音は正確だが日本語の訳がしどろもどろで、生徒たちに笑われる。同僚の丹波先生も陰で先生を笑い、ある雪の日、生活の苦しさを語る先生に、柔道選手の生徒が授業をするよう迫ると、先生はひたすら謝る。毛利先生は一学期で去る。七、八年後、大学を卒業した年の暮れ、友人はカッフェの鏡の中に、給仕たちに英語を教える先生を見つける。給仕頭は、毎晩来ては教えているだけだと話す。友人は、先生の人格をはじめて理解できた気がして、声をかけずに店を出る。

登場人物

冒頭部(原文より)

 歳晩のある暮方、自分は友人の批評家と二人で、所謂腰弁街道の、裸になった並樹の柳の下を、神田橋の方へ歩いていた。自分たちの左右には、昔、島崎藤村が「もっと頭をあげて歩け」と慷慨した、下級官吏らしい人々が、まだ漂っている黄昏の光の中に、蹌踉たる歩みを運んで行く。期せずして、同じく憂鬱な心もちを、払いのけようとしても払いのけられなかったからであろう。自分たちは外套の肩をすり合せるようにして、心もち足を早めながら、大手町の停留場を通りこすまでは、ほとんど一言もきかずにいた。すると友人の批評家が、あすこの赤い柱の下に、電車を待っている人々の寒むそうな姿を一瞥すると、急に身ぶるいを一つして、 「毛利先生の事を思い出す。」と、独り語のように呟いた。

「毛利先生」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

後では毛利先生が、明るすぎて寒い電燈の光の下で、客がいないのを幸いに、不相変金切声をふり立て、熱心な給仕たちにまだ英語を教えている。 「名に代る詞だから、代名詞と云う。ね。代名詞。よろしいかね……」

「毛利先生」芥川龍之介(青空文庫)

名文

元よりそう云う苦しみの中にも、先生は絶えず悠然たる態度を示しながら、あの紫の襟飾とあの山高帽とに身を固めて、ドン・キホオテよりも勇ましく、不退転の訳読を続けて行った。

中学時代に笑いものにした英語教師、毛利先生を、大人になった「自分」が思い返す一節。嘲笑が敬意へと変わる、作品の核心。

「名に代る詞だから、代名詞と云う。ね。代名詞。よろしいかね……」

結びに置かれた毛利先生の言葉。カッフェの給仕たちに今も熱心に英語を教える姿が、この一言に込められている。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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