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生れ出づる悩み(有島武郎)のあらすじ・登場人物

漁師の暮らしと画家への憧れ

  • 青春
  • 心理

有島武郎 1918年(大正7年)3月 「大阪毎日新聞」

文字数
50,550字
読了目安
約1時間41分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 北海道

この作品について

白樺派の作家・有島武郎の代表作。1918年(大正7年)3月から4月にかけて「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」に連載され、同年、書き下ろしの結末を加えて刊行された。画家を志しながら、家計を支えるため北国の厳しい漁師の暮らしに身を投じざるを得なかった一人の青年を、「私」(作家)が見つめ、励ます形で綴る。実在の画家・木田金次郎をモデルとし、芸術への抑えがたい憧れと、生活の現実との間で引き裂かれる若者の苦悩を、荒々しい北海道の海と自然を背景に力強く描く。生きて創ろうとする者へのはなむけとして、今なお青年に読み継がれる一編である。

あらすじ

ある冬の日、東京で創作に行き詰まっていた「私」のもとに、数年前に一度だけ訪ねてきた一人の青年のことが思い出される。かつて彼は、自分の描いた絵を携えて「私」を訪れ、画家として生きたいという切実な望みを打ち明けた。しかし、貧しい一家の暮らしを支えねばならぬ彼は、絵の道をあきらめ、故郷の北海道へ帰って漁師として生きる道を選んだのだった。「私」は、その後の彼が北の海でどのように生きているかを想像し、筆を進めていく——荒れ狂う冬の日本海での命がけの漁、岩と波を相手にする過酷な労働、自然の猛威のなかで研ぎ澄まされていく肉体と精神。だが青年の胸の奥では、絵筆への断ちがたい憧れが火のように燻り続けている。生活のために芸術を捨てたはずなのに、山や海の美しさに触れるたび、彼の内には描かずにいられない衝動が「生れ出づる悩み」となって突き上げてくる。「私」は、現実に押しつぶされることなくその内なる火を守り育てよと青年に呼びかけ、冬の後に必ず来る春を信じて、彼の魂の上に力強い春の訪れんことを心から祈るのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

私は自分の仕事を神聖なものにしようとしていた。ねじ曲がろうとする自分の心をひっぱたいて、できるだけ伸び伸びしたまっすぐな明るい世界に出て、そこに自分の芸術の宮殿を築き上げようともがいていた。それは私にとってどれほど喜ばしい事だったろう。と同時にどれほど苦しい事だったろう。

「生れ出づる悩み」有島武郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

君よ! 今は東京の冬も過ぎて、梅が咲き椿が咲くようになった。太陽の生み出す慈愛の光を、地面は胸を張り広げて吸い込んでいる。春が来るのだ。君よ、春が来るのだ。冬の後には春が来るのだ。君の上にも確かに、正しく、力強く、永久の春がほほえめよかし‥‥僕はただそう心から祈る。

「生れ出づる悩み」有島武郎(青空文庫)

名文

君よ、春が来るのだ。冬の後には春が来るのだ。

作品の結び。北海道の漁村で、絵への情熱と暮らしの苦しさの間で悩む青年へ、作者が呼びかける言葉。苦しみの先に必ず訪れる春を祈る。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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