小さき者へ(有島武郎)のあらすじ・登場人物
遺された三人の子への手紙
- 家族
- 文字数
- 10,154字
- 読了目安
- 約20分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1918年1月、「新潮」に発表された有島武郎の短編。妻を失った作者の経験を背景に、父が幼い三人の子へ、将来読まれることを願って文章を残す形を取る。今は伝えられない両親の思いを、成長した子供たちへ届けたい。そう願う一方で、父は自分の思想をそのまま受け継ぐようには求めず、自分を乗り越えて進むことを望んでいる。吹雪の日の出産の記憶から、若い夫婦の生活へと回想が進み、喜びだけでなく、結婚や家庭に対して抱いた迷いも隠さず語られる。子を愛する父親という立場と、一人の人間としての不安が、同じ声の中に響く点が特徴。呼びかけを重ねる文章は、まだ読めない子供たちと、いつか読むであろう子供たちとの時間の隔たりを感じさせる。親の記憶を子の未来へ手渡そうとする作品であり、励ましの言葉に至るまでの、愛情と自己省察の両方を味わいたい。
あらすじ
お前たちが大きくなって、この書き物を読む時が来るだろう——父はそう書き起こし、三人の幼い息子たちに語りかける。お前たちは去年、たった一人のママを永久に失ってしまった。結婚と札幌での生活、お前たちの誕生。三男を生んだ後、母の胸には結核が巣くっていた。病の宣告、鎌倉への転地、そして病院の一室での長い闘病。母は死の床にあっても、お前たちに会いたいという願いを口にしながら、伝染を恐れてついに会おうとはしなかった。死の数日前に書き遺された遺書には、幼いお前たちへの愛があふれていた。火葬場の煙突から出る一筋の煙を見送った父は、これからお前たちとともに、世の中へ出直そうとしている。私の一生が如何に失敗であろうとも、お前たちは私の足跡から歩むべき道を探し出すだろう。「前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。行け。勇んで。小さき者よ」。
登場人物
- 父(私) 亡き妻の思い出を綴り、幼子たちを励ます語り手
- お前たち 母を失った三人の幼い息子たち
- 母上 結核に倒れた妻。遺書に子への愛を遺す
冒頭部(原文より)
お前たちが大きくなって、一人前の人間に育ち上った時、――その時までお前たちのパパは生きているかいないか、それは分らない事だが――父の書き残したものを繰拡げて見る機会があるだろうと思う。その時この小さな書き物もお前たちの眼の前に現われ出るだろう。時はどんどん移って行く。
「小さき者へ」有島武郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ。前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。 行け。勇んで。小さき者よ。
「小さき者へ」有島武郎(青空文庫)
名文
小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ。前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。 行け。勇んで。小さき者よ。
母を亡くした幼い子らへ宛てた手記の結び。短い命令形を畳みかける父の祈りが、読む者をも励まし続けてきた一節。
原文を読む
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