碁石を呑んだ八っちゃん(有島武郎)のあらすじ・登場人物
弟と喧嘩した日の大騒ぎ
- 家族
- 文字数
- 6,183字
- 読了目安
- 約12分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
有島武郎の童話で、1922年(大正11年)刊行の童話集『一房の葡萄』に収められた。語り手の「僕」は、三つになる弟の八っちゃんと碁石の取り合いから喧嘩になり、弟の乳母の婆やに叱られる。むくれて一人で碁石の兎と亀を並べているうちに、ふと八っちゃんの様子がおかしいことに気づく。子どもの話し言葉の一人称で、兄弟げんかの意地っ張りから、婆やや母のあわただしい動き、胸がどきどきする不安までを、幼い子の目に映るまま追っていく。大人の気持ちを推し量りきれない子どもの心の揺れが、細かな仕草の描写から伝わる作品。
あらすじ
僕は三つの弟八っちゃんと碁石で遊んでいたが、八っちゃんが石をみんな取ろうとするので取り返し、頬をひっかかれてひっかき返すと、八っちゃんは大声で泣き出す。乳母の婆やは僕を叱り、謝らない僕の碁石を一掴み八っちゃんに持っていってしまう。気がかりになりながらも僕は白い石で兎、黒い石で亀を作ろうとするが、石が足りない。八っちゃんに石をくれと言おうとして振り向くと、八っちゃんは真っ赤な顔で涙をため、手足をばたばたさせて吐こうとしていた。婆やが碁石を呑んだと気づいて背中をたたき、僕は母を呼びに走る。母は婆やをとがめて八っちゃんを抱き取り、水を飲ませる。苦しむ八っちゃんを見て、僕は八っちゃんが死ぬのではないかと思い、一人ぼっちになったようで涙が止まらなくなる。やがて八っちゃんがいつもの大声で泣き出し、碁石はお腹の中へ通ったらしいとわかる。医者が呼ばれ、その晩僕は婆やと寝たが、八っちゃんのことが心配でなかなか眠れない。翌朝、着がえをすませた母が僕を起こし、夜中に碁石が出て八っちゃんはすっかりよくなったと告げる。これからは碁石をおもちゃにしないでと言い、泣いていた僕をいたわって抱き起こそうとする母にくすぐられて、僕は大声で笑った。
登場人物
- 僕 語り手の男の子。弟と碁石の取り合いをする
- 八っちゃん 僕の三つになる弟
- 婆や 八っちゃんに乳を飲ませている乳母
- お母さん 僕と八っちゃんの母
冒頭部(原文より)
八っちゃんが黒い石も白い石もみんなひとりで両手でとって、股の下に入れてしまおうとするから、僕は怒ってやったんだ。 「八っちゃんそれは僕んだよ」 といっても、八っちゃんは眼ばかりくりくりさせて、僕の石までひったくりつづけるから、僕は構わずに取りかえしてやった。そうしたら八っちゃんが生意気に僕の頬ぺたをひっかいた。お母さんがいくら八っちゃんは弟だから可愛がるんだと仰有ったって、八っちゃんが頬ぺたをひっかけば僕だって口惜しいから僕も力まかせに八っちゃんの小っぽけな鼻の所をひっかいてやった。指の先きが眼にさわった時には、ひっかきながらもちょっと心配だった。ひっかいたらすぐ泣くだろうと思った。そうしたらいい気持ちだろうと思ってひっかいてやった。
「碁石を呑んだ八っちゃん」有島武郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「およろこび、八っちゃんがね、すっかりよくなってよ。夜中にお通じがあったから碁石が出て来たのよ。……でも本当に怖いから、これから兄さんも碁石だけはおもちゃにしないで頂戴ね。兄さん……八っちゃんが悪かった時、兄さんは泣いていたのね。もう泣かないでもいいことになったのよ。今日こそあなたがたに一番すきなお菓子をあげましょうね。さ、お起き」 といって僕の両脇に手を入れて、抱き起そうとなさった。僕は擽ったくってたまらないから、大きな声を出してあははあははと笑った。 「八っちゃんが眼をさましますよ、そんな大きな声をすると」 といってお母さんはちょっと真面目な顔をなさったが、すぐそのあとからにこにこして僕の寝間着を着かえさせて下さった。
「碁石を呑んだ八っちゃん」有島武郎(青空文庫)
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