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麦搗(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

色男気取りが麦を搗かされる

  • 風刺

泉鏡花 1910年(明治43年)12月

文字数
3,152字
読了目安
約6分
表記
旧字旧仮名
種別
小説

この作品について

明治43年(1910)12月の日付をもつ泉鏡花の掌編。唐の長安を舞台に、色男気取りの蒋生が、牛車に乗った美女のあとを追って屋敷に入り込み、黒髯の大男にとらえられて、驢馬の代わりに麦を搗かされる。縁日歩きの若者への戒めを、滑稽な語り口で語る。

あらすじ

唐の長安の都に、気取り屋の次男坊、蒋生がいた。ある日、郊外を歩いていると、牛車に乗った美女に出会い、その車を追う。女は目で誘うようにも見え、蒋生は夢中になって大きな黒門の屋敷までついていく。屋敷の小女に導かれて小さな潜り門の中に入り、厠の前で待たされた末に、奥の大広間に通される。そこには、真鍮の大火鉢の前に毛むくじゃらで髭面の大男が胡坐をかいており、蒋生を怒鳴りつける。美女は男の妾で、お玉という名だった。男は蒋生の素性を問いただし、それが自分の兄弟分の息子だと知ると、甥のくせに伯父の妾を狙うとは不埒だと怒り、家来に杖で打たせようとする。しかし打つのは杖が汚れると止め、鼻を削ごうと小刀を抜く。美女が間に入ってとりなし、「驢馬の病気の代わりに麦を搗かせては」と提案する。蒋生は、涙を流して承知した。月夜の晩、腰の立たない蒋生は背戸に放り出され、下男に急かされて麦を搗くことになる。縁日歩きの若者は慎むべし、と唐の伯父御が申している、と語り手は結ぶ。

冒頭部(原文より)

 傳へ聞く、唐土長安の都に、蒋生と云ふは、其の土地官員の好い處。何某の男で、ぐつと色身に澄した男。今時本朝には斯樣のもあるまいが、淺葱の襟に緋縮緬。拙が、と拔衣紋に成つて、オホン、と膝をついと撫でて、反る。  風流自喜偶歩、と云ふので、一六が釜日でえす、とそゝり出る。懷中には唐詩選を持參の見當。世間では、あれは次男坊と、敬して遠ざかつて、御次男とさへ云ふくらゐ。處を惣領が甚六で、三男が、三代目の此の唐やうと來た日には、今はじまつた事ではなけれど、親たちの迷惑が、憚りながら思遣られる。  處で、此の蒋才子、今日も又例の(喜偶歩。)で、靴の裏皮チヤラリと出懸けて、海岱門と云ふ、先づは町盡れ、新宿の大木戸邊を、ぶらり/\と、かの反身で、婦が突當つてくれれば可い、などと歩行く。

「麦搗」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

 と下男兩人、腰の立たない蒋生を抱へて、背戸へどんと掴み出す。  えつさ、こらさ、と麥を背負つて、其の下男どもが出直して、薪雜木の手ぐすね引いて、 「やい、驢馬。」 「怠惰けるとお見舞申すぞ。」  眞晝のやうな月夜に立つて、コト/\麥を搗いたとさ。  縁日あるきの若人たち、愼まずばあるべからず、と唐の伯父御が申さるゝ。

「麦搗」泉鏡花(青空文庫)

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