妾宅(永井荷風)のあらすじ・登場人物
堀割のほとりに世をのがれて
- 風刺
- 文字数
- 16,687字
- 読了目安
- 約33分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
永井荷風が江戸趣味へ傾斜してゆく時期を象徴する一編。1912年(明治45年)4月、荷風が主宰する「三田文学」に発表された。近代日本の文明に馴染めぬ「現代文士」珍々先生が、堀割のほとりの妾宅に世をのがれ、江戸以来の粋と閑寂に心を遊ばせるさまを、諧謔と逆説をまじえて描く。西洋かぶれの薄っぺらな近代への皮肉と、滅びゆく江戸文化への愛着とが表裏をなす、随筆的な味わいの強い小説である。
あらすじ
どうしても世間一般の趨勢に伴って行けぬと悟った日から、珍々先生と号する一人の現代文士は、堀割のほとりの妾宅にこもり、倦みがちな空想の日を送るようになった。洋服も着れば電車にも乗り、頼まれれば小説も書く――現代の生存競争に負けまいと世俗の作法は一通り心得つつも、彼はそのすべてを「身過ぎ世過ぎ」と割り切り、人知れず仮面を脱ぎ捨てる楽屋として妾宅を必要とした。黒光りのする格子戸、火鉢に眠る猫、床の間の掛物――薄暗い妾宅の閑寂な佇まいのなかで、彼は江戸以来の趣味と情緒に浸りきる。西洋を追いかけるばかりの薄っぺらな近代文明への皮肉をまじえながら、荷風は珍々先生の姿を借りて、失われゆく江戸の粋への愛着を、諧謔と逆説のうちに語ってみせる。
登場人物
- 珍々先生 近代文明に馴染めず、堀割のほとりの妾宅に世をのがれる「現代文士」。作者の分身
- お妾 妾宅で珍々先生を迎える妾
冒頭部(原文より)
どうしても心から満足して世間一般の趨勢に伴って行くことが出来ないと知ったその日から、彼はとある堀割のほとりなる妾宅にのみ、一人倦みがちなる空想の日を送る事が多くなった。今の世の中には面白い事がなくなったというばかりならまだしもの事、見たくでもない物の限りを見せつけられるのに堪えられなくなったからである。
「妾宅」永井荷風(青空文庫)
末尾部(原文より)
閑話休題。妾宅の台所にてはお妾が心づくしの手料理白魚の雲丹焼が出来上り、それからお取り膳の差しつ押えつ、まことにお浦山吹きの一場は、次の巻の出づるを待ち給えといいたいところであるが、故あってこの後は書かず。読者諒せよ。
「妾宅」永井荷風(青空文庫)
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