猫と庄造と二人のおんな(谷崎潤一郎)のあらすじ・登場人物
一匹の猫が恋敵になる喜劇
- 家族
- 風刺
- 文字数
- 68,020字
- 読了目安
- 約2時間16分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 兵庫県
この作品について
谷崎潤一郎が1936年(昭和11年)に雑誌「改造」に発表した中編小説。阪神間の庶民の家庭を舞台に、雌猫リリーを溺愛する呑気者の亭主・庄造と、先妻・品子、後妻・福子の二人の女が、一匹の猫をめぐって繰り広げる駆け引きをユーモラスに描く。人間の女よりも猫が恋敵になるという着想を、関西弁の生き生きとした会話と綿密な猫の描写で仕立てた異色作で、深刻になりがちな男女関係を喜劇の筆致で描いた谷崎文学の楽しい一面を伝える作品である。
あらすじ
芦屋で小さな荒物屋を営む庄造は、女房の福子よりも、長年飼っている雌猫のリリーを何より可愛がっている。そこへ、庄造の家を追い出された先妻の品子から、福子宛てに「リリーを譲ってほしい」という手紙が届く。夫の猫への溺愛ぶりに日頃から嫉妬していた福子は、品子の魂胆を疑いながらも、かえって意地になってリリーを手放すよう庄造に迫る。庄造は泣く泣くリリーを品子のもとへ送り届けるが、猫のいない暮らしに未練は募るばかり。一方の品子は、憎んでいたはずのリリーと暮らすうち、いつしか猫に情が移り、猫を餌に庄造を呼び戻そうという当ての方が外れていく。ある朝、女房に内緒で品子の家を訪ね、リリーとの再会を果たした庄造だったが、当の品子が帰って来る気配に、恐い物にでも追われるように一散に逃げ出すのだった。
登場人物
- 庄造 芦屋の小さな荒物屋の主人。呑気な怠け者で、雌猫リリーを溺愛する
- リリー 庄造が長年可愛がっている雌猫。二人の女の駆け引きの的になる
- 品子 庄造の先妻。追い出された腹いせと未練から、リリーの引き取りを申し出る
- 福子 庄造の後妻。夫の猫への溺愛に嫉妬し、リリーを手放させる
- お琳 庄造の母。品子を追い出して福子を迎えた、抜け目のない老母
冒頭部(原文より)
福子さんどうぞゆるして下さいこの手紙雪ちゃんの名借りましたけどほんとうは雪ちゃんではありません、そう云うたら無論貴女は私が誰だかお分りになったでしょうね、いえいえ貴女はこの手紙の封切って開けたしゅん間「さてはあの女か」ともうちゃんと気がおつきになるでしょう、そしてきっと腹立てて、まあ失礼な、………友達の名前無断で使って、私に手紙よこすとは何と云う厚かましい人と、お思いになるでしょう、でも福子さん察して下さいな、もしも私が封筒の裏へ自分の本名書いたらきっとあの人が見つけて、中途で横取りしてしまうことよう分ってるのですもの、是非ともあなたに読んで頂こう思うたらこうするより外ないのですもの、けれど安心して下さいませ、私決して貴女に恨み云うたり泣き言聞かしたりするつもりではないのです。
「猫と庄造と二人のおんな」谷崎潤一郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
と、その時ばたばたと足音がして、 「姉さんもうついそこの角まで来てまっせ。」 と、初子が慌しく襖を開けた。 「えッ、そら大変や!」 「裏から出たらあきまへん!………表へ、………表へ廻んなはれ!………穿き物わてが持って行たげる! 早よ、早よ!」 彼は転げるように段梯子を駈け下りて、表玄関へ飛んで行って、初子が土間へ投げてくれた板草履を突っかけた。そして往来へ忍び出た途端に、チラと品子の後影が、一と足違いで裏口の方へ曲って行ったのが眼に留まると、恐い物にでも追われるように反対の方角へ一散に走った。
「猫と庄造と二人のおんな」谷崎潤一郎(青空文庫)
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