霓博士の廃頽(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
博士と学生の大立回り
- 風刺
- 文字数
- 14,450字
- 読了目安
- 約29分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1931年(昭和6年)10月、雑誌「作品」に発表された坂口安吾の初期の短篇。若い妻に頭の上がらない小男の霓博士と、その講座に出る落第生の「僕」、森の酒場の娘クララが入り乱れる、ドタバタの喜劇である。語り手の落第生は「坂口アンゴウ」の名で登場し、博士にはそのたびに蹴られる。擬音と言葉の勢いで押す、スラップスティックの初期作。
あらすじ
星の夜、小男の霓博士は「僕」を邪険に突き飛ばし、坂口アンゴウは憎むべき悪魔だと叫んで襲いかかる。ここ最近、博士は僕を憎み、学校では教室で暴れるのが日課だった。原因はこうだ。僕は神経衰弱で長く学校を休んでいたが、学監に命じられて博士の講座に出ると、博士も神経衰弱と分かり意気投合する。僕は昔の行きつけの「森の酒場」に通えば良くなるかもしれないと勧めた。博士はそこへ入り浸り、酒場の娘クララに夢中になる。しかし、博士の若い妻ミミ夫人はピストルを持った戦闘的な麗人で、毎晩酔って帰る夫を窓から放り出す。博士は僕に責任をなすりつけて憎み、酒場の常連たちまでが僕を袋だたきにする。僕はクララに水をかけて逃げ出す。五日後、ミミ夫人は僕の部屋に現れて夫を連れ戻せと迫り、ピストルで追い立てる。僕は酒場へ飛び込み、追ってきた夫人に博士が草原でなぐられる様子を見る。僕はその愉快さにつられて夫人に加勢するが、逃げた博士を森で見つけて慰めに行くと、博士に再び踏み倒されてしまう。
登場人物
- 僕(坂口アンゴウ) 神経衰弱の落第生。博士の講座に一人で出席している
- 霓博士 小男の博士。若い妻にやつけられては酒場に逃げ込む
- ミミ夫人 博士の二十歳の妻。ピストルを持つ麗人
- クララ 森の酒場の娘
冒頭部(原文より)
星のキラキラとした夜更けのことで、大通りの睡り耽つたプラタナの陰には最早すつかり濡れてしまつた街燈が、硝子の箱にタラタラと綺麗な滴を流してゐたが、――シルクハットを阿弥陀に被り僕の腕に縋り乍らフラフラと千鳥足で泳いでゐた霓博士は、突然物凄い顔をして僕を邪慳に突き飛ばした。 「お前はもう帰れ!」 「しかし、だつて、先生はうまく歩けないぢやありませんか――」 「帰らんと、落第させるぞ!」 「それあ、ひどい!」 「こいつ――」 霓博士はいきなりグヮン! と僕の膝小僧を蹴飛ばした。
「霓博士の廃頽」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
博士は突然首を擡げて振り返ると忽ち闘志満々としてボクシングの型に構え、ブルン! 鋭い真空の一文字を引いた途端に素早く僕の胸倉に絡みついたのだが、渾身の力を奮ひ集めて鼻をグリグリ捻りあげるとヤッ! 僕を山の頂上へ捩ぢ伏せてグタグタにまで踏み潰し蹴倒して紙屑みたいにのしてしまつた。そして晴々と青空を見上げ、如何にも穢はしいもののやうに僕の残骸をポン! と小気味よく蹴り捨てると、 「厭らしい奴ぢやアよ!」―― 苦々しげに呟きを残し、博士は改めて服装を調べ直すと、ひつそりと音の死んだ真昼間の森を麓へ、あの丸太小屋の森の酒場へと目指して――意気揚々と降つて行つた。
「霓博士の廃頽」坂口安吾(青空文庫)
原文を読む
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