女体(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
献身と情欲の二つの妻
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 15,392字
- 読了目安
- 約31分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1946年(昭和21年)9月、「文藝春秋」に発表された坂口安吾の短編。病弱な画家・谷村とその妻素子、二人の絵の先生である岡本の関係を軸に、夫婦のあいだの愛情と嫉妬、女の中にある二つの顔を、谷村の目から細かく追ってゆく。敗戦直後の安吾が発表した、肉体と愛情をめぐる心理小説のひとつ。蛙の代弁という素子の言葉が物語の鍵となる。
あらすじ
谷村と妻の素子は、絵の先生の岡本に何かと金を無心され、応じてきた。ある日谷村は虫のいどころが悪く、岡本に面と向かって、あなたの退廃は芸術のためではなく官能のためだと責めてしまう。岡本の帰ったあと、素子は、蛙に石を投げる子供の話にたとえて谷村を咎める。しかし素子自身が、岡本への嫌悪を口にしている。谷村は、病気のときの献身的な素子と、夜の素子の貪婪な情欲が、同じ一人の女の中で結びついていないことに悩む。三月後、岡本は妻の宝石を売った金を買い戻したいと、突飛な一万五千円の無心を持ちかける。岡本が主に素子へ媚びるように話すのを見て、谷村は、岡本の媚態が素子の肉体そのものに語りかけていることに気づく。素子は金を断る。谷村はさらに、大学出の仁科の素子への態度にも同じものを見いだし、自分が二人を痛めつけるたびに素子が憤懣をためていたのではないかと考える。谷村は、自分が死んだあと素子はどこへ行くのかと思い、肉体のない激しい恋をして消えてしまいたいと願う。
登場人物
- 谷村 病弱な画家。妻を深く愛しながら嫉妬に苦しむ
- 素子 谷村の妻。献身と情欲の二つの面をあわせ持つ
- 岡本 二人の絵の先生。金に困り、放埒な暮らしを送る老画家
- 仁科 谷村夫妻に絵を見てもらいに通う元大学生。官庁の役人
- 藤子 岡本の昔の弟子で、今は株屋の二号
冒頭部(原文より)
岡本は谷村夫妻の絵の先生であつた。元々素行のをさまらぬ人ではあつたが、年と共に放埒はつのる一方で、五十をすぎて狂態であつた。 谷村夫妻の結婚後、岡本は名声も衰へ生活的に谷村にたよることも多かつたので、金銭のこと、隠した女のこと、子供のこと、それまでは知らなかつたり、横から眺めてゐたにすぎないことを、内部に深く厭でも立入らねばならなかつた。
「女体」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
考へすぎてはいけないのだ、と谷村は思ふ。このさゝやかな現実、さゝやかな生命に、精一ぱいのいたはりと愛情だけをそゝがなければ、と。 然し、谷村は熱烈な恋がしたいと思つた。肉体といふものゝない、たゞ精神があるだけの、そしてあらゆる火よりも強烈な、燃え狂ひ、燃え絶ゆるやうな激しい恋を。その恋とともに掻き消えてしまひたい、と谷村は思つた。
「女体」坂口安吾(青空文庫)
原文を読む
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