お奈良さま(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
オナラの住職の受難
- 風刺
- 文字数
- 10,159字
- 読了目安
- 約20分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1954年『別冊小説新潮』に載った、奇想のユーモア小説。生まれつきオナラの多い寺の住職「お奈良さま」が、葬儀の席で起きたある出来事をきっかけに檀家の家庭騒動に巻き込まれる。下品にもなりそうな題材を、礼儀や面目、夫婦の愛情といった大真面目な議論に変えてしまうところに、安吾の滑稽の芸がある。
あらすじ
寺の住職「お奈良さま」は生まれつきオナラが多く、檀家に出入りするたびに肩身の狭い思いをしてきた。春山家の老母は彼に好意的で、命日の読経のあと病床に呼ばれるが、お奈良さまが聞き取れずに問い返したとたん、特大のオナラがもれ、隠居はそのまま息を引き取ってしまう。唐七はそれを「大往生は住職のオナラのおかげ」と感謝し、お奈良さまは一時面目を施すが、唐七の妻ソメ子と娘の糸子は激怒する。ソメ子は読経でのオナラを禁じ、糸子はお奈良さまの娘・花子に絶交を宣言する。そんな折、お奈良さまは法事に出向き、唐七の居間で二人してオナラをもらしながら、夫婦の愛情と家庭でのオナラの意味を語り合う。唐七も家で差し止めをくっていたと知った住職は、人前ではもらすまいと決意して節食と我慢に励むが、日に日に衰え、妻とオナラの愛情を語り合ううち、胸をかきむしって息をひきとる。
登場人物
- お奈良さま 生まれつきオナラの多い寺の住職
- 春山唐七 檀家の主。住職に好意的で自身もオナラのケがある
- ソメ子 唐七の妻。礼儀にやかましい茶道の師匠
- 糸子 唐七の長女。弁論に長けた中学二年生
- 花子 お奈良さまの末娘。糸子の同級生
冒頭部(原文より)
お奈良さまと云っても奈良の大仏さまのことではない。奈良という漢字を当てるのがそもそもよろしくないのであるが、こればかりは奈良の字を当てたいという当人の悲願であるから、その悲願まで無視するのは情において忍びがたいのである。 お奈良さまはさる寺の住職であるが、どういうわけか生れつきオナラが多かった。
「お奈良さま」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
「それが無限の愛惜かな」 「そうかも知れませんね。どっちかと云えば、私はあなたの言葉よりもオナラの方が好きでした。言葉ッてものは、とかくいろいろ意味がありすぎて、あなたの言葉でも憎いやら口惜しいやらバカらしいやらで、親しみがもてないですね。そうかと思えば、見えすいたウソをつくし。オナラにはそんなところがありませんのでね」 「なるほど。それだ。ウム。私たちは幸福だったな。本当の夫婦だった。ウム。ム」 お奈良さまは胸をかきむしった。アブラ汗が額からしたたり流れている。目を白黒したが、抱きかかえる女房の腕の中へあおむけにころがった。そして、そのまま息をひきとってしまったのである。
「お奈良さま」坂口安吾(青空文庫)
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