女剣士(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
コソ泥が剣客の婿を目指す
- 風刺
- 文字数
- 36,654字
- 読了目安
- 約1時間13分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 群馬県
この作品について
1954年『小説新潮』に載った、剣豪物のパロディ風ユーモア小説。前科四犯の小悪党・石毛存八は、出所後、土木工事の山村で出会った娘を頼って村に戻るが、冷たくあしらわれ、法神流の剣客・小山内朝之助の道場の下僕に収まる。怪力の娘・歌子、剣を教える父、急所ばかり狙う小学校教員が入り乱れ、剣と愛欲の騒動が思わぬ方向へ転がる。
あらすじ
前科四犯のコソ泥・石毛存八は、刑務所を出ると世帯道具一式を担いで、かつて工事で働いた山村へ向かう。そこでお作という娘に「待ってるよ」と言われたからだが、村人の反応は冷たく、結局、旦那の紹介で剣術の家柄・小山内家の下僕になる。当主の朝之助と娘の歌子は法神流を継ぐ剣客で、さっそく存八は歌子に投げ飛ばされるが、朝之助は存八に「魔を宿す天分」を見る。唯一の門弟で小学校教員の寺田正一郎は、歌子との縁談を朝之助に断られ、存八との立ち合いでも頭突きで気絶する。朝之助は両名のうち見どころのある方を婿にすると約束し、存八は一変して稽古に励む。一方、寺田は国定忠治を気取って東京の郵便局を襲い、金をもって帰る。やがて山中に歌子を連れて籠もった朝之助は、愛欲に悩んだ末に自らを断ち、気力を失って里へ戻り、まもなく果ててしまう。歌子は存八の高慢に腹を立てて追い出し、父の死を武芸の玄妙を示した大往生と信じて、いっそう技を磨いているという。
登場人物
- 石毛存八 前科四犯のコソ泥。怠け者だが婿の座がかかると豹変する
- 小山内朝之助 法神流の当主。山中の苦業を重ねた剣客
- 小山内歌子 朝之助の娘。雄大で美しい女剣士
- 寺田正一郎 小学校の教員。執念深い剣を使う
- お作 存八が惹かれた山村の娘
冒頭部(原文より)
石毛存八は刑務所をでると、鍋釜バケツからタオル歯ブラシに至るまで世帯道具一式を買ってナンキン袋につめこんだ。物事はハジメがカンジンだ。その心になったら、まず何よりもそれにとりかかることがカンジンだ。小さいながらも世帯を持ちたいと思ったら、まず鍋釜を買っちまうのだ。そして鍋釜にかけても世帯を持たねばならぬと盲メッポウ一路バクシンの執念をもつことだ。これが存八の刑務所をでるに際して深く期した心構えで、もう足りない物はないかと何度も考えてみたあげく、惜しげもなく賑やかな市街に別れをつげて、大友飯場へのりこんだのである。
「女剣士」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
しかし歌子は父が武芸の玄妙を示して死んだと思いこんでいた。身をもって武芸の玄妙を示したのだと思ったのだ。 まさに打ちおろす一瞬にグラリとゆれて岩の如くに倒れた自然さ。歌子の狙いきめたあの太刀が肩しか打てなかった。大自然、大自在、無碍の境、人智を絶した円熟の境地だ。これを示して、そして火の消ゆるが如くに息絶えた父は、まさに天地カイビャク以来の大往生であろう。大いなる岩の往生である。なんたる偉大な教訓であろうか。ありがたい父よ、と歌子は感きわまり感涙にむせんで父の徳をしたった。 そして父の境地に至るために夜となく昼となく、益々技をみがいているということである。
「女剣士」坂口安吾(青空文庫)
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