お富の貞操(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
猫を助けた娘の胸の内
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 8,355字
- 読了目安
- 約17分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
彰義隊の戦いの前日、上野の小間物屋の台所で、乞食の新公と奉公人のお富が鉢合わせする。置き去りにされた猫を助けにきたお富の振る舞いが、思いがけない成り行きを生む。雨音のなかの短い事件と、二十年余り後の短い後日談から成る一編。
あらすじ
明治元年五月十四日、彰義隊の攻撃を翌日に控えた上野で、主人が立ち退いた小間物屋の台所に、乞食の新公が雨を避けて忍びこむ。置き去りにされた猫の三毛を撫でつつ、新公は短銃を検べていた。そこへ奉公人のお富が、三毛を探して戻ってくる。からかう新公をお富は傘で打ち据え、組み付かれても剃刀で抵抗するが、新公が三毛に短銃を向けると、猫だけは助けてくれと頼む。引き換えに体を貸せと言われたお富は、茶の間に身を横たえる。新公は恥じたように引き返し、冗談だと言って手を出さなかった。お富は、なぜあの時ああしたのか自分でも分からないまま、猫を懐に帰ってゆく。それから二十年余り後、夫と子供たちと上野広小路を歩くお富は、馬車に乗る勲章だらけの新公を見かけるが、不思議にも驚かなかった。
登場人物
- お富 小間物屋に奉公する田舎出の若い娘
- 新公 乞食姿の男。短銃を持っている
- 三毛 古河屋の飼い猫
冒頭部(原文より)
明治元年五月十四日の午過ぎだつた。「官軍は明日夜の明け次第、東叡山彰義隊を攻撃する。上野界隈の町家のものは々何処へでも立ち退いてしまへ。」――さう云ふ達しのあつた午過ぎだつた。下谷町二丁目の小間物店、古河屋政兵衛の立ち退いた跡には、台所の隅の蚫貝の前に大きい牡の三毛猫が一匹静かに香箱をつくつてゐた。
「お富の貞操」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
新公の馬車の通り過ぎた時、夫は人ごみの間から、又お富を振り返つた。彼女はやはりその顔を見ると、何事もないやうに頬笑んで見せた。活き活きと、嬉しさうに。……
「お富の貞操」芥川龍之介(青空文庫)
名文
下谷町二丁目の小間物店、古河屋政兵衛の立ち退いた跡には、台所の隅の蚫貝の前に大きい牡の三毛猫が一匹静かに香箱をつくつてゐた。
冒頭の一節。彰義隊の戦いを翌日に控え、町家の人々が立ち退いた上野界隈。空き家に残された三毛猫が、この物語の鍵になる。
「猫ぢや悪いのかい?――三毛、三毛、さあ、下りて御出で。」
立ち退いた家へ忘れ物を取りに戻ったお富の言葉。命の危うい町へ猫一匹のために戻る、気丈で一途な人柄が表れる。
原文を読む
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