ラムネ氏のこと(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
フグに徹し、ラムネに徹する
- 風刺
- 文字数
- 3,494字
- 読了目安
- 約7分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
ラムネ玉を発明したのは「ラムネー氏」なる人物だ、という三好達治の断言から話は始まる。フグを最初に食べた者、毒茸にあたって死んだ茸取りの名人、そして「愛」に訳語を与えた伴天連たち——坂口安吾が「物のありかたを変えてきた者」について書いた随筆。
あらすじ
小田原へ鮎釣りに来た小林秀雄と島木健作、そして三好達治の家での雑談。ラムネの玉を発明した奴は、あれ一つ発明しただけで往生を遂げたとすればおかしな奴だ、と小林が言えば、三好は居ずまいを正して「ラムネはラムネー氏なる人物が発明したからラムネと言う、フランスの辞書にも載っている」と自信満々に断言する。後日、安吾がプチ・ラルッスを調べても現れたのは哲学者フェリシテ・ド・ラムネーだけで、その肖像がなぜか小林秀雄によく似ていた——そんな冗談から筆は思わぬ方へ進む。我々の周囲にあるものは天然自然のままではない。フグ料理が成立するまでの暗黒時代には、幾十百の殉教者がいたはずだ。中巻では、信州の鉱泉宿で毎晩得体の知れない茸を食わされた話が語られる。「絶対に大丈夫だ」と太鼓判を押した茸取りの名人が、自分の茸にあたって静かに往生してしまうのだ。この村にはラムネ氏がいなかった、と安吾は言う。下巻は切支丹渡来のころ、「愛」の訳語に困った伴天連たちが「御大切」という言葉を編み出した話へ。結果の大小は問題ではない、フグに徹しラムネに徹する者だけが物のありかたを変えてきた——それならば男子一生の業とするに足りる、と結ばれる。
冒頭部(原文より)
小林秀雄と島木健作が小田原へ鮎釣りに来て、三好達治の家で鮎を肴に食事のうち、談たま/\ラムネに及んで、ラムネの玉がチョロ/\と吹きあげられて蓋になるのを発明した奴が、あれ一つ発明しただけで往生を遂げてしまつたとすれば、をかしな奴だと小林が言ふ。 すると三好が居ずまひを正して我々を見渡しながら、ラムネの玉を発明した人の名前は分つてゐるぜ、と言ひだした。
「ラムネ氏のこと」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
いはゞ、戯作者も亦、一人のラムネ氏ではあつたのだ。チョロチョロと吹きあげられて蓋となるラムネ玉の発見は余りたあいもなく滑稽である。色恋のざれごとを男子一生の業とする戯作者も亦ラムネ氏に劣らぬ滑稽ではないか。然し乍ら、結果の大小は問題でない。フグに徹しラムネに徹する者のみが、とにかく、物のありかたを変へてきた。それだけでよからう。 それならば、男子一生の業とするに足りるのである。
「ラムネ氏のこと」坂口安吾(青空文庫)
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