六の宮の姫君(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
世間を知らぬ王朝の姫君
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 5,914字
- 読了目安
- 約12分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 京都府
この作品について
芥川龍之介が1922年(大正11年)8月、雑誌「表現」に発表した短編小説。「今昔物語集」に取材した王朝物の一編である。時勢に取り残された昔気質の宮家に生まれ、世間を知らぬまま育った六の宮の姫君の暮らしを、端正な擬古文で描く。自ら生きる術を持たず、ひたすら受け身に生きた王朝の女性の姿を静かに映し出した、芥川の王朝物を代表する佳品。
あらすじ
時勢に取り残された昔気質の宮家に生まれた六の宮の姫君は、父母に深く慈しまれ、世間を知らぬまま、悲しみも喜びも知らないつつましい日々を送っていた。やがて世話をする女房の取り持ちで、一人の若い男が姫君のもとに通うようになり、二人はひそやかに情をかわす。だが男は父の任国へ下る供をして、遠い陸奥へと旅立つことになる。「必ず戻る」との言葉を信じ、姫君はひたすら帰りを待ち続けるが、月日は流れ、頼みの父母にも先立たれ、暮らしは日ごとに傾いていく。新たに縁づく話も持ち上がるが、ただ待つことしか知らぬ姫君は心を動かさない。歳月ののち、ようやく都に戻った男が変わり果てた姫君を捜し当てたときには、彼女はすでに落ちぶれ、病みやつれて死の床にあった。行き倒れ同然の姫君は、通りかかった高徳の僧・内記の上人(慶滋保胤)に念仏を勧められ、その声に導かれながら、極楽往生も定かならぬまま息を引き取る。ただ人を待つことしか知らず、自ら生きる術を持たなかった王朝の女の、はかなくあわれな生涯を、芥川が「今昔物語集」に材を得て端正に描いた一編である。
登場人物
- 六の宮の姫君 昔気質の宮家の娘。世間を知らぬまま、通ってきた男の帰りをただ待ち続けるうちに零落し、はかなく死ぬ
- 男 姫君のもとに通った若者。父の任国の供をして陸奥へ下り、長く姫君を待たせる
- 内記の上人(慶滋保胤) 姫君の臨終に通りかかり、念仏を勧める高徳の僧
冒頭部(原文より)
六の宮の姫君の父は、古い宮腹の生れだつた。が、時勢にも遅れ勝ちな、昔気質の人だつたから、官も兵部大輔より昇らなかつた。姫君はさう云ふ父母と一しよに、六の宮のほとりにある、木高い屋形に住まつてゐた。六の宮の姫君と云ふのは、その土地の名前に拠つたのだつた。 父母は姫君を寵愛した。しかしやはり昔風に、進んでは誰にもめあはせなかつた。誰か云ひ寄る人があればと、心待ちに待つばかりだつた。姫君も父母の教へ通り、つつましい朝夕を送つてゐた。それは悲しみも知らないと同時に、喜びも知らない生涯だつた。が、世間見ずの姫君は、格別不満も感じなかつた。「父母さへ達者でゐてくれれば好い。」――姫君はさう思つてゐた。
「六の宮の姫君」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
「内記の上人ではございませんか? どうして又このやうな所に――」 在俗の名は慶滋の保胤、世に内記の上人と云ふのは、空也上人の弟子の中にも、やん事ない高徳の沙門だつた。
「六の宮の姫君」芥川龍之介(青空文庫)
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