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竜(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

高札一枚が呼んだ竜

  • 風刺
  • 幻想

芥川龍之介 1919年(大正8年)5月 「中央公論」

文字数
9,398字
読了目安
約19分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 奈良県

この作品について

『宇治拾遺物語』にある猿沢の池の竜の話を素材に、宇治大納言隆国が往来の人々から昔語りを聞くという枠をつけた短編。大鼻の法師が、いたずらで立てた「三月三日この池より竜昇らんずるなり」の高札が、国々に広がる大騒ぎを呼ぶ。語り口の可笑しみと、噂が事実を作ってゆくおそろしさが同居する。

あらすじ

宇治大納言隆国は、往来の人々から昔話を聞いて双紙を編もうと思い立ち、最初の語り手として陶器造の翁を呼ぶ。翁の話は、奈良にいた大鼻の法師、蔵人得業恵印の昔語りだった。赤い大鼻を「鼻蔵」と笑われるのを恨んだ恵印は、猿沢の池のほとりに「三月三日この池より竜昇らんずるなり」という高札を打つ。口から出まかせの悪戯のつもりだったが、噂は婆さんから町へ、禰宜の娘の夢や、池の底に蠢く怪しい影を見たという老爺の話へと膨らみ、ついには摂津から叔母の尼まで見物に上ってくる。当日、国々から押し寄せた人波に、恵印は悪戯を悔いるが、やがて自分まで本当に竜が昇るような気分になる。日暮れ近く、突然の雷雨のなか、恵印は黒竜が昇る姿を見たと思う。叔母も、集まった人々も、同じものを見たと言った。後に恵印が悪戯を白状しても、誰も信じなかったという。

登場人物

冒頭部(原文より)

宇治の大納言隆国「やれ、やれ、昼寝の夢が覚めて見れば、今日はまた一段と暑いようじゃ。あの松ヶ枝の藤の花さえ、ゆさりとさせるほどの風も吹かぬ。いつもは涼しゅう聞える泉の音も、どうやら油蝉の声にまぎれて、反って暑苦しゅうなってしもうた。どれ、また童部たちに煽いででも貰おうか。

「竜」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

宇治大納言隆国「なるほどこれは面妖な話じゃ。昔はあの猿沢池にも、竜が棲んで居ったと見えるな。何、昔もいたかどうか分らぬ。いや、昔は棲んで居ったに相違あるまい。昔は天が下の人間も皆心から水底には竜が住むと思うて居った。さすれば竜もおのずから天地の間に飛行して、神のごとく折々は不思議な姿を現した筈じゃ。が、予に談議を致させるよりは、その方どもの話を聞かせてくれい。次は行脚の法師の番じゃな。 「何、その方の物語は、池の尾の禅智内供とか申す鼻の長い法師の事じゃ? これはまた鼻蔵の後だけに、一段と面白かろう。では早速話してくれい。――」

「竜」芥川龍之介(青空文庫)

名文

その鼻蔵の、鼻蔵人の、大鼻の蔵人得業の恵印法師が、ある夜の事、弟子もつれずにただ一人そっと猿沢の池のほとりへ参りまして、あの采女柳の前の堤へ、『三月三日この池より竜昇らんずるなり』と筆太に書いた建札を、高々と一本打ちました。

陶器造の翁が語る話の発端。鼻を笑われる恵印が仕返しのつもりで立てた建札が、奈良じゅうを巻き込む騒ぎへ広がっていく。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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