春の潮(伊藤左千夫)のあらすじ・登場人物
房総の村に咲いた若い恋
- 恋愛
- 文字数
- 38,517字
- 読了目安
- 約1時間17分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 千葉県
この作品について
伊藤左千夫の中篇。養子先から戻された青年省作と、隣家の娘おとよの恋を、房総の農村の明るい風土の中に描く。『野菊の墓』と並ぶ左千夫の代表的な恋愛小説で、地方の田園の暮らしと、家と親に縛られた若い恋の苦しさが交差する。
あらすじ
省作は養子に入った家を三月と十日で出て、実家に戻ってくる。「おッ母さん、追い出されてきました」と笑いながら言うが、実際にはいくらかの煩悶を経てのことである。家族に迎えられながらも、省作の心は隣の娘おとよに向かっていく。おとよにも、周囲が決めた縁談や、家のしがらみがあり、二人の恋は田畑の仕事や村の人々の目の中で、思うように進まない。九十九里の風景や、汽車で千葉へ向かう場面を含め、郷土の自然の描写が随所に生きている。結末では、二人が汽車で降りる決意をする場面が置かれる。
冒頭部(原文より)
一 隣の家から嫁の荷物が運び返されて三日目だ。省作は養子にいった家を出てのっそり戻ってきた。婚礼をしてまだ三月と十日ばかりにしかならない。省作も何となし気が咎めてか、浮かない顔をして、わが家の門をくぐったのである。 家の人たちは山林の下刈りにいったとかで、母が一人大きな家に留守居していた。日あたりのよい奥のえん側に、居睡りもしないで一心にほぐしものをやっていられる。省作は表口からは上がらないで、内庭からすぐに母のいるえん先へまわった。
「春の潮」伊藤左千夫(青空文庫)
末尾部(原文より)
「おとよさん、私は何かはまにやりたいが、何がよかろう」 「そうですねい……そうそう時計をおやんなさい」 「なるほど私は東京へゆけば時計はいらない、これは小形だから女の持つにもえい」 駅夫が千葉千葉と呼ぶ。二人は今さらにうろたえる。省作はきっとなって、 「二人はここで降りるんだ」
「春の潮」伊藤左千夫(青空文庫)
原文を読む
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