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戦争論(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

戦争の効能と終わりを説く

  • 社会

坂口安吾 1948年(昭和23年)10月 「人間喜劇」

文字数
10,716字
読了目安
約21分
表記
新字新仮名

この作品について

1948年10月、イヴニングスター社の雑誌「人間喜劇」に載った評論。冒頭に前章の短文、後半に日本の同胞への訴えを置く二部構成。戦争は人類に文化の交流などの利益をもたらしたが、原子爆弾が空想の限界を超えた以後は、もはや戦争をやってはならないと論じる。続けて、天皇崇拝の復活、禁止や弾圧に頼る政治、ストライキ、共産主義、家の制度までを批判的に見直しており、敗戦三年後の安吾の政治観を知ることができる。

あらすじ

戦争は人類に多くの利益をもたらした。民族や文化の交流を生んだ、と安吾はまず述べる。しかしすべての物事には限度があり、自動車に速度制限があるように、戦争の兵器にも限界がある。一九四五年八月六日の原子爆弾は人間の空想すら超えた悪魔の兇器であり、もはや戦争の被害は利益を上回る、断じて戦争をやってはならないと語る。後半では、再び戦争へ近づく気配が日本人の心にあると警告する。天皇への神格的崇拝の復活や、エロ・グロの禁止弾圧のような、無策のまま安易な便法に頼る政治を批判し、ストライキを好戦的な素朴な手段として、労働問題審判所のような合理的な調停機関を設けるべきだと提案する。共産主義も専制の性格を持つと批判する。各人の自由と責任が確立すれば戦争はなくなり、闘ってよいのは自由の確立のためだけだという。さらに、戦争が文化を交流させ、世界単一国家へ導くという効能を認めたうえで、これからは平和な手段で実現すべきだと述べる。家の制度にも蒙昧と不合理があるとして、最後の理想は子供を国家が育てることだと語り、古きを古きがゆえに正しとする蒙昧が失われるように、と結ぶ。

冒頭部(原文より)

 戦争は人類に多くの利益をもたらしてくれた。それによって、民族や文化の交流も行われ、インドの因明がアリストテレスの論理学となり、スピロヘーテンパリーダと共にタバコが大西洋を渡って、やがて全世界を侵略し、兵器の考案にうながされて、科学と文明の進歩はすゝみ、ついに今日、人間は原子エネルギーを支配するに至ったのである。  多くの流血と一家離散と流民窮乏の犠牲を賭けて、然し、今日に至るまで、戦争が我々にもたらした利益は大きい。その戦争のもたらした利益と、各々の歴史の時間に人々がうけた被害と、そのいずれが大であるか、歴史という非情の世界に於ては、むしろその利益が大であったと云うべきであろう。

「戦争論」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 戦争は終った。永遠に。我々に残された道は、建設のみである。昔ながらのものに復旧することを正義としてはならないのだ。こりることを知らねばならぬ。常に努力と工夫をもち、理想に向って、徐々に、正確に、めいめいの時代をより良いものとしなければならない。  私はくりかえして云う。戦争の果した効能は偉大であった。そして、戦争が未来に於て果すであろう効能も、偉大である。即ち、世界単一国家と、家の制度に代る新秩序の発生。  すでに戦争の終った今日、我々は戦争が未来に果すであろう役割を、平和な手段によって、徐々に、正確に、実現してゆかなければならないのである。  古きものを、古きが故に正しとみる蒙昧の失われんことを。まことに、まことに、そうあれかし。

「戦争論」坂口安吾(青空文庫)

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