銭湯(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
湯加減争いの大騒ぎ
- 風刺
- 文字数
- 3,020字
- 読了目安
- 約6分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
明治末の銭湯を舞台に、湯加減をめぐる大人たちの騒ぎを滑稽に描いた掌編。本文の末尾に「明治四十二年十二月」とある。幼い息子を水で何杯もうめた湯に入れようとする髯の旦那と、熱い湯に息子を叩き込む江戸っ子の職人が、芝居がかった誇張の文体で語られる。怪異や幻想の作家として知られる泉鏡花の、軽妙な滑稽味を味わえる小品である。
あらすじ
松の湯の揚場で奥方が待つ間、髯の旦那は二歳ばかりの男の子を抱え、水船の水を桶で何杯も湯船にあけ、さらに小さく刻むように子どもの体に少しずつ浴びせて、十分もかけてようやく湯に沈む。隣では刺繍の彫り物を背にした四十五六の職人が、五歳ばかりの息子を洗っていたが、旦那の浴びせた雫を頭からかぶる。旦那が入った後に職人が湯船へ飛び込むと、水でうめすぎた湯は日向水のようで、番頭の三助も呆れ、すぐに熱湯を注ぎ込む。職人は息子に「熱いのが何だ、父にはぬるいや」と叱りつけて湯へ入れ、子は涙をこぼしながら入るが、ついに赤くなって跳ね出る。三助がこれを金太郎と囃すと、旦那はまたタオルで湯をだぶりだぶりと浴びせ、奥方は女湯の揚場で芝居の絵ビラに頬をつける。
登場人物
- 髯の旦那 湯を水でうめ、二歳ばかりの我が子を大切に入れる男
- 奥方 厚化粧で揚場に控える旦那の妻
- 職人 刺繍のある江戸っ子の職人。熱い湯にも息子を入れさせる
- 奴 職人の五歳ばかりの息子
- 三助 湯を沸かし直して場を盛り上げる番頭格の男
冒頭部(原文より)
それ熱ければ梅、ぬるければ竹、客を松の湯の揚場に、奧方はお定りの廂髮。大島擬ひのお羽織で、旦那が藻脱の籠の傍に、小兒の衣服の紅い裏を、膝を飜して控へて居る。
「銭湯」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
「やあ、金時、足柄山、えらいぞ金太郎。」と三助が、飛んで出て、 「それ、熊だ、鹿だ、乘んなせえ。」 と、奴の前の流を這つた。 髯はタオルから湯をだぶり。 「それ、ぢやぶ/\、それ、ぢやぶ/\。」 あらう事か、奧方は渦きかゝる湯氣の中で、芝居の繪比羅に頬をつけた。
「銭湯」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。