新樹の言葉(太宰治)のあらすじ・登場人物
乳のつながりという縁
- 心理
- 文字数
- 14,443字
- 読了目安
- 約29分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 山梨県
この作品について
甲府を舞台にした短編。1939年(昭和14年)5月、竹村書房刊の作品集『愛と美について』に書き下ろしで収められた。盆地のまちに移り住んだ「私」のもとへ、思いがけず乳兄弟の青年が訪ねてくる。乳母つるが遺した縁だけを頼りに、まっすぐ慕ってくる兄妹の姿を通して、血のつながりとは違う爽やかな結びつきを描く。結婚を控えた時期の、明るさに満ちた一篇。
あらすじ
甲府の下宿で暮らす「私」のもとへ、ある日、思いがけない訪問客があった。端正な顔立ちの若者は、私の乳母だったつるの息子・幸吉だという。生れてすぐ乳母に預けられた私にとって、つるは母よりも先に記憶にある人であった。小学生の頃、お盆に一度だけ会った色の白い男の子——それが彼だったのだ。両親を早くに亡くし、いまは小さな商いをしながら妹と二人で暮らしているという幸吉は、私を本当の兄のように慕っていた。血のつながりではない、乳のつながり。私は酔い、子守唄をうたい、みっともないほど泣きごとを並べた。それから二日目の夜半、けたたましい半鐘が鳴りひびく。
登場人物
- 私 甲府の下宿で暮らす作家
- 幸吉 私の乳母つるの息子。乳兄弟にあたる青年
- 妹 幸吉の妹。きつい語調がつるにそっくりな少女
- つる 私を育てた乳母。津軽半島の漁村の生れ
冒頭部(原文より)
甲府は盆地である。四辺、皆、山である。小学生のころ、地理ではじめて、盆地という言葉に接して、訓導からさまざまに説明していただいたが、どうしても、その実景を、想像してみることができなかった。甲府へ来て見て、はじめて、なるほどと合点できた。大きい大きい沼を掻乾して、その沼の底に、畑を作り家を建てると、それが盆地だ。
「新樹の言葉」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
けだものの咆哮の声が、間断なく聞える。 「なんだろう。」私は先刻から不審であった。 「すぐ裏に、公園の動物園があるのよ。」妹が教えてくれた。「ライオンなんか、逃げ出しちゃたいへんね。」くったく無く笑っている。 君たちは、幸福だ。大勝利だ。そうして、もっと、もっと仕合せになれる。私は大きく腕組みして、それでも、やはりぶるぶる震えながら、こっそり力こぶいれていたのである。
「新樹の言葉」太宰治(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。