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心霊殺人事件(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

暗闇の降霊会で起きた殺人

  • ミステリ

坂口安吾 1954年(昭和29年)10月 「別冊小説新潮」

文字数
25,550字
読了目安
約51分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 静岡県

この作品について

奇術師の伊勢崎九太夫が、心霊術の実験会に立ち会うことになる短編推理小説。1954年10月の「別冊小説新潮」に発表された。舞台は熱海、依頼主は血も涙もないと評判の高利貸一家。暗闇の降霊会の席で事件が起こり、各人の証言と図が記される推理の趣向を取る。推理小説を読者との謎ときゲームと考えた安吾の、戦後の推理短編のひとつである。

あらすじ

奇術師の伊勢崎九太夫は、熱海の高利貸・後閑仙七の娘二人から、心霊術の実験に立ち会ってほしいと頼まれる。仙七はビルマで戦死した長男の霊に会い、その遺児を引き取りたいと言い出していた。兄妹は千石旅館の番頭で一寸法師の辰男、勝美、ミドリ、糸子の四人で、父の本当の魂胆が分からず困惑している。実験の夜、仙七の邸の二階には全面に暗幕がおろされ、大和から呼ばれた術師の吉田八十松、仙七、兄妹、九太夫、元軍人らしい茂手木らが席につく。九太夫は茂手木に中国の戦地で会った記憶があった。暗闇の中で怪音が響いたあと、九太夫が電燈をつけさせると、仙七は短剣で刺されて死んでいた。警察の取り調べで各人の位置と証言が記録され、翌日の再現実験でも犯人は絞れない。九太夫は一族に好意を覚えつつ、誰がどう動けたかを考え、糸子がもたらした「開けずの荷物」の話に目を留める。そして荷物の発送を押さえさせ、仙七がビルマの孫を口実に大和から怪しまれず大荷物を熱海へ運んだこと、荷物を奪おうとした吉田八十松が仙七を殺したことを見抜く。荷物は中国の古仏で、宝石をはめこんだ時価何十億という品だった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 伊勢崎九太夫はある日二人の麗人から奇妙な依頼をうけた。心霊術の実験に立ち会ってインチキを見破ってくれというのだ。九太夫はいまは旅館の主人だが、もとは奇術師で名の知れた名手であった。奇術師の目から見れば心霊術なぞは幼稚きわまる手品で、暗闇でやるから素人をだましうる程度のタネと仕掛だらけの詐術にすぎないのである。熱海の旅館なぞでもこの心霊術師をよんで実験会をやるのが一時流行したこともあったので、九太夫はその向うをはって「タネも仕掛もある心霊術実験会」と称し、奇術師の立場から術を用いて心霊現象の数々を巧みに実演してみせた。白昼大観衆の眼前で術を行う奇術師から見れば暗闇で怪奇現象を見せるぐらいお茶のこサイサイというものだ。こういう経歴があるから心霊術の詐術を見破ってくれという依頼がきてもフシギはないが、しかし、こういうことを個人的に依頼するその必要が奇妙というものだ。

「心霊殺人事件」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

「ええ、京都奈良が焼け残っていましたからあちらで商売していました」 「大和で盗みだした支那の古仏だそうだ。誰かが支那から持ち帰った逸品でね、支那でも国宝中の国宝というべき絶品だそうだよ。それがね。頭や、首輪や腕輪や目やオッパイや足輪なぞに古今無類の宝石をはめこんでいて、時価何十億か見当もつかないものだそうだ。等身大六尺ぐらいの仏像だったんだよ」  九太夫はホッと溜息をもらしたが、糸子サンはカラカラ笑って、 「仏像を盗みだすなんて、父にしては出来すぎてるわね。呆れたインチキ詩人だ!」  と云って、舌をだした。

「心霊殺人事件」坂口安吾(青空文庫)

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