月と手袋(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
月夜に仕組んだ殺人の偽装
- ミステリ
- 文字数
- 39,548字
- 読了目安
- 約1時間19分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
「オール讀物」1955年4月号に発表された乱歩の戦後の短編。人妻と愛し合う脚本家が、高利貸しの夫を殺したあと、月夜の晩に自分のアリバイを仕組む。犯人の側から事件が語られる倒叙の形をとり、後半では警視庁の警部と、その背後にいる名探偵明智小五郎との心理戦が描かれる。冒頭にはカーの作品への言及についての注記がある。
あらすじ
シナリオ・ライターの北村克彦は、元男爵の高利貸し股野重郎の妻あけみと愛し合っていた。ある二月の夜、股野に呼ばれて訪ねると、二人の関係を知る股野は慰謝料と交際の断絶を要求し、克彦を殴る。つかみ合いのすえ、克彦は股野を絞め殺してしまう。克彦はかねて空想していた手を実行する。あけみに股野の替玉となって窓から助けを求めさせ、箒に軍手をつけた偽の腕で口をふさがれた姿を見せて、通りかかった巡査の前で克彦自身のアリバイを作る。さらに借用証書を焼き、あけみは洋服ダンスに縛られて閉じ込められた被害者を装う。計画は成功して事件は迷宮入りとなり、二人は一緒に暮らし始める。しかし、警視庁の花田警部が親しげに出入りし、明智小五郎の助言を得ていると告げ、尾行や、手袋とベルトの手品で二人の心を揺さぶり続ける。耐えかねた二人が寝室で本音を漏らしたとき、壁に仕込まれたマイクロフォンが会話を録音していた。克彦は敗北を認め、心理的な追及は拷問ではないかと抗議するが、花田は、罪がなければ痛痒を感じないはずだと答える。
登場人物
- 北村克彦 シナリオ・ライター。股野を殺す
- 股野重郎 元男爵の高利貸し。映画界にも出入りする
- 股野あけみ 重郎の妻。元少女歌劇の女優
- 花田 警視庁の警部。明智小五郎の助言を受ける
冒頭部(原文より)
一 シナリオ・ライター北村克彦は、股野重郎を訪ねるために、その門前に近づいていた。 東の空に、工場の建物の黒い影の上に、化けもののような巨大な赤い月が出ていた。歩くにしたがって、この月が移動し、まるで彼を尾行しているように見えた。克彦はそのときの巨大な赤い月を、あの凶事の前兆として、いつまでも忘れることができなかった。
「月と手袋」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
心理攻撃は徳川時代の拷問とは全くちがったものですよ。……わかりましたか」 克彦は深く首を垂れたまま答えなかった。
「月と手袋」江戸川乱歩(青空文庫)
原文を読む
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