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深夜の市長(海野十三)のあらすじ・登場人物

夜の街を統べる謎の顔役

  • ミステリ

海野十三 1936年(昭和11年)2月 「新青年」

文字数
109,900字
読了目安
約3時間40分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

海野十三が1936年(昭和11年)、雑誌「新青年」に連載した長編探偵小説。深夜の散歩を趣味とする探偵作家の「僕」が、夜の街を統べる謎の顔役「深夜の市長」と出会い、市政を揺るがす黄金の鍵を巡る陰謀に巻きこまれてゆく。昼と夜で顔を変える二重生活者の秘密を軸に、都市の闇と幻想的な雰囲気を色濃くたたえた、著者の代表的な探偵ロマンである。

あらすじ

探偵小説を書きながら、近ごろ司法官の職に就いたばかりの「僕」こと浅間新十郎は、深夜の散歩を無上の楽しみにしていた。ある雪の夜、T市の裏町で、背に短刀の刺さった死体を運ぶ二人組を目撃し、殴り倒される。気づけば死体は消え、あとには狂った懐中時計と、なぜか磁力を帯びた三枚のニッケル貨幣だけが残されていた。警官隊に追われた僕を穴蔵に匿ったのは、鬚だらけのルンペンでありながら夜の街を統べる顔役「深夜の市長」だった。科学と推理に長けた市長は、街の科学者・速水輪太郎に謎解きを託す。事件の背後には、T市の市政を巡る暗闘があった。清廉な高屋市長と、土地払下げ疑惑を振りかざして市長を弾劾しようとする市会の巨頭・動坂三郎。その争点は、市庁の金庫を開ける「T市の黄金の鍵」の在り処だった。動坂は鍵を奪わせた男を口封じに殺し(磁石に吸い寄せられる短剣を投げる、あの夜の殺人がそれだった)、鍵を我が身につけて離さない。僕と速水は、床下から毒瓦斯を送りこんで動坂邸を眠らせ、防弾チョッキの裏から鍵を奪い返す。だが翌日の市会は紛糾し、動坂は金庫内に強力な磁石を仕込んで書類を持ち去っていた。事態は、高屋市長の自殺、動坂に兄を殺された女マスミによる無理心中へと雪崩れてゆく。すべてが終わったのち、責任を感じて職を辞した僕が「深夜の市長」の洞窟を訪ねると、そこはもぬけの殻で、一通の書き置きと付け髯が残されていた。夜の顔役「深夜の市長」の正体は、昼の顔たる黒河内警視総監その人だったのである。

登場人物

冒頭部(原文より)

「深夜の市長」に始めて会ったのは、陽春とは名ばかりの、恐ろしく底冷えのする三月二十九日の夜のことだった。ラジオの気象通報は、中国大陸にあった高気圧が東行してかなり裏日本に迫り、北西風が強く吹き募ってきたことを報じた上、T市地方は二、三日うちにまた雪になるでしょうと有難くない予報をアナウンスした。そのアナウンスもやがてぷっつりと切れ、暗黒なエーテルの漂う夜空からは、内地の放送局が一つ一つお休みなさいを云って電波を消してゆき、あとには唯一つ、南京放送局の婦人アナウンサーが哀調を帯びた異国語で何かしら悠くりと喋っている声だけが残っていた。

「深夜の市長」海野十三(青空文庫)

末尾部(原文より)

僕は「深夜の市長」の付け髯と手紙とを胸に押しあてたまま、暫くは茫然としていた。今までどうもそんな気がしないこともなかったが、「深夜の市長」こそ深夜の勤務における黒河内警視総監の姿だったのか、いや黒河内総監こそは「深夜の市長」の昼間における勤務姿だったといった方がいいように思う。だがルンペンになった僕が、途端に「深夜の市長」に捨てられたことは大変寂しかった。いや「深夜の市長」に捨てられたばかりでなく、その一党にも捨てられたことが後になってハッキリ分ってきた。その後、夜更けて幾度も丸の内十三号館を訪ねたが、あの聳え立っていた高塔も見えず、裏口の通路も見当らず、もちろん速水輪太郎にもお照にも会えなかった。僕は今でも、時折思いたっては、当て途もなく深夜の街を散歩する。そんなときは、今夜こそは、「深夜の市長」にパッタリ行き逢いそうな気がするのだが、不幸にして、その後一度も彼にも彼の一党にも巡り逢ったことがない。従って、彼等の残していった数々の謎も、いまだにやっぱりそのままになっている。

「深夜の市長」海野十三(青空文庫)

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