市井喧争(太宰治)のあらすじ・登場人物
贋百姓のあとに来た商人
- 心理
- 文字数
- 1,735字
- 読了目安
- 約3分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
太宰治の掌編。1939年(昭和14年)12月、雑誌「文藝日本」に発表された。三鷹へ越して間もない頃、贋の百姓に薔薇を押し売りされた作者のもとへ、今度は温室からの商人が訪れ、思わぬ口論になる。同じ出来事を扱った「善蔵を思う」の素材となる場面を含んでいる。
あらすじ
九月のはじめに甲府から三鷹へ越して四日目、贋百姓の女に薔薇を押し売りされ、四円を取られた「私」は、ひと月ほどのち、そのときの様子を小説に書いて手を入れていた。そこへ、近くの温室から来たという四十ばかりの男が、草花の球根でもと言って縁先に現れる。「私」が、先日薔薇を植えられてしまったと余裕のある笑顔で話すと、男は自分が責められたと受け取って居直り、お互い一対一ではないかとからんでくる。「私」は、断れなかったのは自分の弱さだと認めるしかなく、商人はいよいよ勢いづいて嘲笑し、捨てぜりふを残して立ち去る。あとで、隣で縫物をしていた妻が出てきて、商人にはうんと金のある振りを見せなければ馬鹿にされる、四円が痛かったなどという下品なことはこれから言うな、と応対の拙さを笑う。「私」は市井に住むことの難しさを思う。
登場人物
- 私 三鷹に越してきた作家
- 贋百姓の女 薔薇を押し売りした女(先の出来事)
- 商人 温室から来た四十ばかりの男。球根を売りに来る
- 妻 隣部屋で縫物をしている「私」の妻
冒頭部(原文より)
九月のはじめ、甲府からこの三鷹へ引越し、四日目の昼ごろ、百姓風俗の変な女が来て、この近所の百姓ですと嘘をついて、むりやり薔薇を七本、押売りして、私は、贋物だということは、わかっていたが、私自身の卑屈な弱さから、断り切れず四円まきあげられ、あとでたいへん不愉快な思いをしたのであるが、それから、ひとつき経って十月のはじめ、私は、そのときの贋百姓の有様を小説に書いて、文章に手を入れていたら、ひょっこり庭へ、ごめん下さいまし、私は、このさきの温室から来ましたが、何か草花の球根でも、と言い、四十くらいの男が、おどおど縁先で笑っている。
「市井喧争」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
ふたたび、先日の贋百姓の描写に、あれこれと加筆して行きながら、私は、市井に住むことの、むずかしさを考えた。 隣部屋で縫物をしていた妻が、あとで出て来て、私の応対の仕方の拙劣を笑い、商人には、うんと金のある振りを見せなければ、すぐ、あんなにばかにするものだ、四円が痛かったなど、下品なことは、これから、おっしゃらないように、と言った。
「市井喧争」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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