アプリで読む

無料・登録不要

勝負事(菊池寛)のあらすじ・登場人物

勝負事を禁じた父と祖父の過去

  • 家族

菊池寛 1920年(大正9年)

文字数
3,951字
読了目安
約8分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

菊池寛が大正半ばに発表した短い小説。勝負事が話題になった席で、「私の友達の一人」が語った話を書き留めるという形をとる。友人は子供のころから、めんこやねっきのような遊びまで父に固く禁じられて育った。小作をしてかつかつ暮らす貧しい家で、修学旅行の旅費を出してもらえずに駄々をこねた晩、父がはじめて、なぜ勝負事を戒めるのかを打ち明ける。その理由は、かつて庄屋をつとめた家と祖父の過去にかかわっていた。語り手の話は、成長してから両親に聞かされた祖父の生涯へと移っていく。数ページの短さのなかで、家族が背負った苦労と人の情を描いている。

あらすじ

勝負事を固く禁じられて育った友人は、高等小学一年のとき、五円の旅費が出せずに修学旅行へ行かせてもらえなかった。出発前夜、泣いてせびる彼に、父は床の中から、恨むなら祖父を恨め、村一番の石持ちだった家をこうしたのは祖父の勝負事だと打ち明ける。祖父は養子に来た人で、三十前後から賭博に溺れ、千石近い田地も家屋敷も失い、祖母の櫛や笄まで持ち出した。六十を過ぎても小博奕をやめなかったが、死に際の祖母に手を合わせて頼まれ、ようやく賭博を断つ。それからは昔の自分の土地で小作人として慣れない野良仕事をし、ぼんやり考え込むことが多くなった。死ぬ三月ほど前の小春日和、母がお茶を持って行くと、藁堆の陰から「今度は、俺が勝ちだ」という祖父の笑い声が聞こえる。また昔の仲間に誘われたかとぞっとして近づくと、祖父は五つになる孫と、藁を一本ずつ抜いて長さを比べていた。母は祖父へのすべての恨みを忘れ、心からいとしく思ったという。その孫が自分だと、友人は話を結んだ。

登場人物

冒頭部(原文より)

 勝負事ということが、話題になった時に、私の友達の一人が、次のような話をしました。 「私は子供の時から、勝負事というと、どんな些細なことでも、厳しく戒められて来ました。幼年時代には、誰でも一度は、弄ぶにきまっている、めんこ、ねっき、ばいなどというものにも、ついぞ手を触れることを許されませんでした。

「勝負事」菊池寛(青空文庫)

末尾部(原文より)

 見ると、ぽかぽかと日の当っている藁堆の陰で、祖父とその五つになる孫とが、相対して蹲っていたそうです。何をしているのかと思ってじっと見ていると、祖父が積み重っている藁の中から、一本の藁を抜いたそうです。すると、孫が同じように、一本の藁を抜き出したそうです。二人はその長さを比べました。祖父が抜いた方が一寸ばかり長かったそうです。 『今度も、わしが勝ちじゃぞ、ははははは』と、祖父は前よりも、高々と笑ったそうです。  それを見ていた母は、祖父の道楽のために受けたいろいろの苦痛に対する恨みを忘れて、心からこの時の祖父をいとしく思ったとのことです。  祖父が最後の勝負事の相手をしていた孫が、私であることは申すまでもありません」

「勝負事」菊池寛(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品